鑑賞録やその他の記事

鑑賞録-タイトルあ行

芸術的珍品『あるじ』(1925)

書き下ろしです。 2022年末に好評だったカール・テオドア・ドライヤー監督特集が、再び開催されている。今回新たに加えられた3作のうち『あるじ』を観た。初見。1925年、ドライヤーが30代半ばのときに母国デンマークで撮ったもので、フランスなどで大ヒット…

人工の情感『アステロイド・シティ』(2023)

書き下ろしです。 ウェス・アンダーソン監督『アステロイド・シティ』(23)を観る。 50年代のアメリカ南西部の荒野の町の数日間を描いたものだが、全体が一本の戯曲ということになっていて、さらにその-劇作家の執筆に始まる-成り立ちを伝えるテレビのドキ…

若々しい交響詩『EO イーオー』(2022)

書き下ろしです。 新宿シネマカリテで『EO イーオー』(2022)を観る。1938年ポーランド生まれの独創的な天才、イエジー・スコリモフスキ監督の新作を、いまなお映画祭とかではなくロードショー公開で迎えられるとは、何という幸せだろう。タイトルから、かつ…

『いれずみ半太郎』(1963)の最後の賭

書き下ろしです。 ラピュタ阿佐ヶ谷の脚本家野上龍雄特集で、マキノ雅弘監督作品『いれずみ半太郎』(63)を観る。自分は長谷川伸の原作戯曲『刺青奇偶(いれずみちょうはん)』(※注1)を、まだ勘九郎だった頃の十八代目勘三郎と玉三郎の舞台で観ているが、…

『生きる』(1952)について二点ばかり

2018/5/26 の Facebook 投稿に手を加えたものです。 朝日新聞の週末別刷り版「be」に、「私の好きな黒澤映画」って記事が載っていた。朝日新聞デジタルの登録者対象のアンケートをもとにした黒澤明監督作品のランキングで、ベストテンは次の通り。 1. 『七人…

ジョン・フォード『ウィリーが凱旋するとき』(1950)

書き下ろしです。 シネマヴェーラ渋谷で『ウィリーが凱旋するとき』(50)。初見。今回の「蓮實重彦セレクション 二十一世紀のジョン・フォード PartⅢ」で、個人的にミッシー(バーバラ・スタンウィック)主演の『鍬と星(北斗七星)』(36)と並んで観たかった…

古澤健『いずれあなたが知る話』『見たものの記録』(2023)

書き下ろしです。 古澤健監督の新作を2本、試写で。 まず『いずれあなたが知る話』(23)は、出演者でもある大山大と小原徳子が、前者はプロデューサー、後者は脚本を務めた作品。古澤監督は準備の最終段階で、乞われて監督を引き受けたという。大山演じるニ…

ジャック・ターナー『インディアン渓谷』(1946)

Facebook に 2021/11/29 に投稿した記事をもとにした書き下ろしです。 過日投稿した『バーバラ・スタンウィック・ショー』(60~61)の1エピソードでの西部劇演出が見事だったジャック・ターナー監督の西部劇映画をDVDで2本、続けて観た。 『インディアン渓…

快作『いとみち』(2021)

Facebook の 2021/7/13 の投稿に手を加えたものです。 横浜聡子監督作『いとみち』(21)を観る。不器用な少女がメイド喫茶でのバイトを通じて周囲に心を開き、かつて得意だった津軽三味線にも再び向き合っていく…という話だ。 登場人物に愛情を込めて描いてい…

政治ノワール『オール・ザ・キングスメン』(1949)

Facebook の 2013/9/8 の投稿に手を加えたものです。 最近個人的に開催している "真夜中のロバート・ロッセン祭り" 、今日は『オール・ザ・キングスメン』(1949)。廉価版DVDで持っているのだが、観るのは実はこれが二回目なのだ。 ロッセンとしては前回取…

キートン長編の初期作『荒武者キートン』(1923)

Facebook に 2019/ 5/20 に投稿した記事に手を加えたものです。 DVDで『荒武者キートン』鑑賞。初見。 バスター・キートンの役者としての最初の長編にはダグラス・フェアバンクスの代打で出た『馬鹿息子』(20)があり、自ら主導権を握ったのには短編3本で構…

『女ガンマン 皆殺しのメロディ』(1971)

Facebook に 2020/ 2/ 4 に投稿した記事に手を加えたものです。 バート・ケネディ監督作『女ガンマン 皆殺しのメロディ』をDVDで。初見。71年のイギリス西部劇ということだが、監督・キャストとアメリカ人揃いなので、少々マカロニの影響を受けたハリウッド…

『ある男』(2022)

書き下ろしです。 石川慶監督作品『ある男』の評判が良いので、観に行った。平野啓一郎の小説の映画化だ。山間の町に住む理枝は愛する夫の事故死をきっかけに、"谷口大祐" という彼の名前と素性が全く他人のものだったという衝撃の事実に直面する。彼女の依…

『アムステルダム』(2022)

書き下ろしです。 デヴィッド・O・ラッセル監督作『アムステルダム』をイオンシネマ板橋で。第一次大戦の英雄である将軍の戦後の死を暗殺の疑いがあると知った元部下の医者と弁護士が、冤罪を被りながらもその真相から世界的な陰謀にまで辿り着く物語。主人…

『ウォーク・ザ・ライン/君に続く道』(2005)

書き下ろしです。 『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』を DVD で。いまやアメリカ映画界を代表する監督のひとりになったジェームズ・マンゴールドによるジョニー・キャッシュの伝記映画だ。ジョニー・キャッシュといえば、エルヴィス・プレスリーや先頃…

『宇宙のデッドライン』(1960)

Facebook に 2021/ 6/ 7 に投稿した記事に手を加えたものです。 アマゾン・プライムに『宇宙のデッドライン』があった。かつて『未来からの脱出』の題名でテレビ放映されたエドガー・G・ウルマー監督の(例によって)低予算映画で、AIPのSF。これがウルマー…

『イヴの総て』(1950)の巧さ

Facebook に 2018/ 6/10 に投稿した記事に手を加えたものです。 大昔に録画しておいた『イヴの総て』を観る。似たタイトルのドラマなどもあるようだが、これはアカデミー賞6冠に輝くジョセフ・L・マンキーウィッツ監督の古典的名作。演劇界を舞台に、大女…

『アルキメデスの大戦』(2019)

Facebook に 2019/ 8/18 に投稿した記事に手を加えたものです。 山崎貴監督作品『アルキメデスの大戦』。まず最初に-予告篇でも感じたから観に行ったのだが-菅田将暉が圧倒的に素晴らしいということだけは言っておかなければ。以前から好きな役者だったの…

『あのこは貴族』(2020)

Facebook に 2021/ 4/13 に投稿した記事に手を加えたものです。 『あのこは貴族』を池袋シネ・リーブルで。東京の裕福な家庭の娘、門脇麦と、地方出身で苦労する水原希子の、対照的なふたりの生き方を描く。ちなみにタイトルの「貴族」とは本物の名家という…

活劇的に演出された英雄悲劇-『悪徳』(1955)

Facebook 内に 2018/ 6/ 3 に投稿した記事に手を加えたものです。 『何がジェーンに起こったか』(1962)余波でロバート・アルドリッチ監督作品を DVD でもう一本、『悪徳』。原題は "The Big Knife" とカッコイイ。これが実に『ジェーン』と共通項の多い映画…

『エンジェル・グラディエーター』(1973)

Facebook に 2021/ 3/23 に投稿した記事に手を加えたものです。 先頃亡くなったスティーヴ・カーヴァー(※注)の長編デビュー作で、日本では劇場未公開の『エンジェル・グラディエーター』をDVDで。初見。古代ローマ、見世物として命をかけた剣闘をさせられ…

『5つ数えれば君の夢』(2014)

Facebook に 2014/ 3/23 に投稿した記事に手を加えたものです。 『5つ数えれば君の夢』を、ロードショーで観る。文化祭数日前から当日までの女子校を舞台に、東京女子流の全員(※注1)を主役格にした映画だ。 不動のセンター、新井ひとみは超然とした美少…

『ウエスト・サイド・ストーリー』(2021)

Facebook に 2022/ 2/12 に投稿した記事に手を加えたものです。 スティーヴン・スピルバーグ監督作品『ウエスト・サイド・ストーリー』。これほど名曲揃いのミュージカルともなると、「あの曲はどんな風に?」と思ってしまうことは避けられないし、また自然…

『暗黒街の美女』(1958)

Facebook に 2019/12/16 に投稿した記事に手を加えたものです。 ネット上で『暗黒街の美女』を拾って観る。鈴木清順がデビュー3年目の58年に、本名の清太郎から改名して初の作品。同年には秀作『影なき声』もある。主演は水島道太郎と白木マリだが、悪役の…

『エルヴィス』(2022)

Facebook に 2022/ 7/ 7 に投稿した記事に手を加えたものです。 『エルヴィス』の伝記映画!ニュースを知ったのは8年前、それだけなら高揚するはずが、監督が苦手なバズ・ラーマンと知った落胆。この複雑な思いを抱えたまま公開日が迫って、予告篇を観る。…

ジャン=リュック・ゴダール『イメージの本』(2018)

Facebook に 2019/ 5/20 に投稿した記事に手を加えたものです。 ゴダール最新作『イメージの本』を観た。彼の頭に残る古典映画からニュース、Youtubeに至る多様な映像を自身のナレーションと断片的な音を重ねながら、モンタージュし続ける音楽的な作品。映像…

『映画クレヨンしんちゃん ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん』(2014)

Facebook に 2014/ 5/20 に投稿した記事に手を加えたものです。 『映画クレヨンしんちゃん ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん』(長えよ)を観た。 前半のユルさに乗りづらかったとか、伏線を生かせてないとか、小道具の使い方がいまひとつとか、市庁舎を乗っ…

下山天監督作品『ALIVE HOON アライブフーン』(2022)

Facebook に 2022/ 6/29 に投稿した記事に手を加えたものです。 下山天監督作品『ALIVE HOON アライブフーン』。ヴァーチャルなレースゲームの世界に生きていた青年が、実車のモータースポーツの世界に飛び込み、戦い抜いていく。これといった大きなヒネリも…

スピルバーグ、ハリウッドのメジャーな孤児 『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』(2008)

Facebook に 2012/11/26 に投稿した記事に手を加えたものです。 eiga.com> 第1位に「レイダース/失われたアーク《聖櫃》」、最下位に同じシリーズ最新作「インディ・ジョーンズ クリスタル・スカルの王国」を配置するなどバランスが取れており、「リンカー…