鑑賞録やその他の記事

鑑賞録-タイトルさ行

『すべて、至るところにある』(2023)、或いは、「ない」?

書き下ろしです。 マレーシア出身で大阪を拠点に活動するリム・カーワイ監督の最新作『すべて、至るところにある』を、渋谷のイメージフォーラムで観た。 バルカン半島で出会った女性エヴァ(アデラ・ソー)と男性映画監督ジェイ(尚玄)。ふたりは意気投合…

塩田監督渾身のエロコメ『春画先生』(2023)

書き下ろしです。 塩田明彦監督最新作『春画先生』(2023)を観る。 江戸の浮世絵の中で「春画」といわれるジャンルは、性の悦楽の世界を赤裸々に描き出したもの。春信・歌麿・北斎など多くの巨匠が手がけており、性器そのものの描写を含め、観るひとに強烈な…

大人の青春活劇『17歳は止まらない』(2023)

書き下ろしです。 北村美幸監督作品『17歳は止まらない』(23)を観る。 農業高校で畜産を学ぶ瑠璃は、年上好み。同年代の男の子に対するツンと好きな先生へのデレの落差が異常で、特にデレ時のウザさが凄まじく、その歯止めの効かなさは正にタイトル通りだ。…

暗黒の南北劇『修羅』(1971)

書き下ろしです。 目黒シネマで松本俊夫監督作品『修羅』(1971)を、恐らく40年ぶりぐらいに観た。鶴屋南北の名作歌舞伎『盟三五大切(かみかけてさんごたいせつ)』と、それを石沢秀二が劇団青年座用に脚色したものが、原作となっている。南北には先輩に当た…

役者対決の妙味『西部の男』(1940)

Facebook の 2021/7/28 の投稿に手を加えたものです。 ウィリアム・ワイラー『西部の男』(40)を録画で。ウォルター・ブレナンが首吊り判事ロイ・ビーン(※注)を演じているので気になってたのだが、実は初見。 で、このブレナンが実に良いのだ。我儘で愛嬌…

ジャック・ターナー『硝煙』(1956)

Facebook に 2021/12/3 に投稿した記事をもとにした書き下ろしです。 ジャック・ターナー監督の西部劇映画、先に投稿した『インディアン渓谷』(46)に続いて『硝煙』(56)を観る。 舞台は南北戦争突入直前の北部コロラド州デンヴァー。ロバート・スタック演じ…

ほたる企画作『短篇集 さりゆくもの』(2020)

Facebook の 2022/2/9 の投稿に手を加えたものです。 ケイズシネマで、女優のほたるさん企画・プロデュースの『短篇集 さりゆくもの』(2020)。 一本目、ほたる監督作品『いつか忘れさられる』。井川耕一郎監督作『色道四十八手 たからぶね』(14)の残フィルム…

マイナー枠の力作『新聞記者』(2019)

Facebook の 2020/3/8 の投稿に手を加えたものです。 メジャーが中心の日本アカデミー賞だが、大昔の五社体制も崩れて久しい日本映画界であるからには、毎年の作品賞にはマイナーでも費用対効果で抜群のヒットをした話題作が一本ぐらいは選ばれる。その意味…

ドン・シーゲルの腕が冴える『殺人捜査線』(1958)

書き下ろしです。 菊川のミニシアター、Stranger のドン・シーゲル監督特集で『殺人捜査線』(58)を観る。 冒頭の港でのタクシー暴走の激しいアクションから、警察の捜査で、海外から帰国した一般人の荷物に麻薬入りの土産品を潜ませて回収する(つまり、一般…

若さと熟練の共存『早春』(1970)

Facebook の 2018/1/31 の投稿に手を加えたものです。 中学生の頃「スクリーン」でヌード立て看板と泳ぐスチールを見て以来、気になっていたイエジー・スコリモフスキ監督作品『早春』(70)を、遂に恵比寿ガーデンシネマで初見。思わせぶりなイントロに「一昔…

バッファロー・ビルの映画その1『西部の王者』(1944)

Facebook の 2020/12/19 の投稿に手を加えたものです。 西部劇ヒーローのひとり、"バッファロー・ビル" コーディを扱った映画を、2日続けてDVDで観る。 バッファロー狩りの名手で西部の事情通としてアメリカ軍のために活躍。やがて自らの経験に基づく見世物…

『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』(1975)

Facebook の 2022/ 5/10 の投稿に手を加えたものです。 シャンタル・アケルマン映画祭で公開中の『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』を観る。デルフィーヌ・セイリグ演じる名もなき未亡人の日常とその崩壊を描き、最初の場…

劇場版『スパイの妻』(2020)

Facebook の 2020/11/30 の投稿に手を加えたものです。 ようやく観た、黒沢清監督作『スパイの妻』。劇中のセリフを借りて「おみごと!」で済ませればいい気もするけど、それでは悔しいのでちょっと書く。でも「次、どうなるの」という、いや、そもそも「こ…

伊藤高志の初長編『零へ』(2021)

Facebook の 2022/ 8/22 の投稿に手を加えたものです。 イメージフォーラムで『零へ』を観る。80年代初頭に『SPACY』(81)『T HUNDER』(82)などで衝撃をもたらした実験映画作家、伊藤高志の新作で72分の初長篇だ。暴力的な映画を撮る二人の女性から、幻影に憑…

75分の秀作サスペンス『三人の狙撃者』(1954)

Facebook の 2021/12/27 の投稿に手を加えたものです。 Amazon Prime でルイス・アレン『三人の狙撃者』(54)。75分でバシッとまとまった娯楽サスペンスで、実に面白い。"Suddenly" という変わった名前の田舎町に大統領が来るという異常事態が、保安官以下数…

ジェニファー・ジョーンズの出世作『聖処女』(1943)

Facebook に 2022/ 1/15 に投稿した記事に手を加えたものです。 ヘンリー・キング監督作『聖処女』。ドライヤー特集で最近リバイバル公開された『奇跡』(54)にも通じる宗教ファンタジーで、名高いルルドの泉の奇蹟を描く。19世紀なかば、フランスの片田舎に…

『すずめの戸締まり』(2022)に脱帽

Facebook 内に 2022/11/22 に投稿した記事をベースにしてますが、ほぼ書き下ろしです。 新海誠監督作品『すずめの戸締まり』。自分は『君の名は。』(16)は火口のシーンなどが気恥ずかしくてどうにも苦手だったのだが、本作は評判もいいので観に行ってみた。…

鶴田法男監督の中国映画『戦慄のリンク』(2020)

Facebook 内に 2022/ 7/16 に投稿した記事に手を加えたものです。 昨日は新宿シネマカリテへ。カリコレ(※注1)での鶴田法男監督の中国映画『戦慄のリンク』、待望の国内初上映に駆けつける。ネット小説を巡る暗黒サスペンスを、不穏なカメラワークとツボを…

バーバラ・スタンウィック版『ステラ・ダラス』(1937)

Facebook に 2022/ 2/ 5 に投稿した記事に手を加えたものです。 大好きな "ミッシー" ことバーバラ・スタンウィックの代表作の一本、『ステラ・ダラス』の DVD を買った。監督はキング・ヴィダーでヘンリー・キングのサイレント映画のリメイク。キングつなが…

『続・荒野の用心棒』(1966)をスクリーンで観る

Facebook に 2020/ 2/ 4 に投稿した記事に手を加えたものです。 セルジオ・コルブッチ監督によるマカロニ・ウエスタンの異常傑作『続・荒野の用心棒』を、シネマート新宿に夫婦で観に行く。映画館で観るのは初。泥土をズルズルと棺桶を引きずって歩くジャン…

ジョン・フォード『戦争と母性』(1933)『モホークの太鼓』(39)

Facebook に 2022/ 7/26 に投稿した記事に手を加えたものです。 シネマヴェーラのジョン・フォード特集2本。いずれも初見。 『戦争と母性』は、ヘンリエッタ・クロスマン扮する頑固な母親が、息子を溺愛するあまり自ら招いた悲劇と贖罪の物語。砂利道に柵と…

『西部魂』(1941)

Facebook に 2021/ 7/ 2 に投稿した記事に手を加えたものです。 フリッツ・ラング監督作『西部魂』を久々に再見。ウエスタン・ユニオン電信会社の大工事を描いた大作西部劇だ。トップ・クレジットはロバート・ヤングだが、南軍ゲリラ活動もしていたアウトロ…

高橋洋印の濃縮ジュース『ザ・ミソジニー』(2022)

Facebook に 2022/ 7/24 に投稿した記事に手を加えたものです。 "カリコレ" で高橋洋監督作品『ザ・ミソジニー』を一足早く。劇作家でもある女優が自分の夫を略奪した女優を館に呼び寄せ、おぞましい母親殺しの実録芝居の稽古を始める。すぐに芝居と現実の境…

『散弾銃の男』(1961)

Facebook に 2017/ 1/29 に投稿した記事に手を加えたものです。 チャンネルNECOで録画した『散弾銃(ショットガン)の男』(61)を観る。鈴木清順監督、二谷英明主演の山村西部劇。見せ場の連続サービスを心がけたのだろうが、常に過剰な感じがあって落ち着…

ゴダール初の3D映画『さらば、愛の言葉よ』(2014)

Facebook に 2015/ 3/ 2 に投稿した記事に手を加えたものです。 『さらば、愛の言葉よ』を観る。ゴダールの3Dは空間の広がりというより、まず、目前を手で塞がれるような圧力として示される。嘘の立体化によって、「そこに在ること」の揺るぎなさが捏造され…

『ソウル・フラワー・トレイン』(2013)

Facebook に 2013/ 9/28 に投稿した記事に手を加えたものです。 西尾孔志監督作品『ソウル・フラワー・トレイン』(2013)。公開時、高橋洋が森崎東監督の名を出して紹介していたので、「これは俺が観ねば」と新宿 K's Cinema の上映最終日に駆けつけた。 冒頭…

『シン・ウルトラマン』(2022)

Facebook に 2022/5/13 に投稿した記事に手を加えたものです。 『シン・ウルトラマン』を公開初日に観た。 冒頭から数分は、自分のような「ウルトラ世代」はかなりわくわくする仕掛けがある。特にウルトラマン初登場シーンは、幼い日にテレビ・シリーズが始…