鑑賞録やその他の記事

下山天監督作品『ALIVE HOON アライブフーン』(2022)

Facebook に 2022/ 6/29 に投稿した記事に手を加えたものです。

下山天監督作品『ALIVE HOON アライブフーン』。
ヴァーチャルなレースゲームの世界に生きていた青年が、実車モータースポーツの世界に飛び込み、戦い抜いていく。
これといった大きなヒネリもなく分かりやすく進むお話は、ものすごくベタ。んで、世の中には「ベタなところが逆にいいでしょ」と言わんばかりに、工夫のない自堕落な映像作品を作ってしまう連中も数多いのだが。この映画、ベタで見せきるには、ここまで映画を信じて、ここまで力を注ぐのが大事なんだな-ということを、あらためて教えてくれる。
ここまでやってこその「ベタの魅力」だ。

とにかく、映画の主題である「車の走り」「ドリフト」を、できる限りの技を尽くして見せる。いま撮れるすべての角度で撮っちゃおうと言わんばかりの熱意が、車をスクリーン上で輝かせる。
その上で、それらが映画的に盛り上がるには(映画の中で)見ている人間たちの反応が大事という基本も、徹底的にやってみせる。だから競技シーンだけじゃなく、最初にヒロインの前で走ってみせるところも、テストでチームの皆の反応が変わっていくところも、映画らしい、イキイキとした展開をみせる。

加えて、いろんな要素を切り落としたようなドラマ部分でも、下着姿で部屋にいた主人公が女の子が来たのを見て慌てるところや、仕上がった車を主人公が二階から見下ろすところ、チームリーダーの陣内孝則と主人公が話しているときにヒロインが(主人公がヴァーチャルゲームのチームに行ってしまいそうなことを知っていて)微妙な反応を見せるところなど、随所で映画らしい「うま味」を感じさせてくれる。ライバルのドライバーがメカニックと喧嘩するところで、レースクイーンたちの反応が効果的に使われているのは、センスを感じた。

主役の野村周平は「おとなしいオタク」という、(レースやゲームで顔色を変える以外は)役者としてのしどころの見つけにくそうな役を、余計なことをせず淡々と演じる。それでいいんだ-と思わせる好演。
役者のアンサンブルは総じて良く、スタッフのアンサンブルも良かったのだろう…と思わせることが、「チームとともに」というクライマックスにつながる。
モータースポーツどころか自動車全般に暗い自分のような人間にも、存分に楽しめる映画だった。