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『ウエスト・サイド・ストーリー』(2021)

Facebook に 2022/ 2/12 に投稿した記事に手を加えたものです。

スティーヴン・スピルバーグ監督作品『ウエスト・サイド・ストーリー』。
これほど名曲揃いのミュージカルともなると、「あの曲はどんな風に?」と思ってしまうことは避けられないし、また自然な反応なのだが、いちいち考え抜いてみごとにクリアしてる。
特にプエルトリカンの心情を代弁する『アメリカ』のスケールの大きな演出と、白人ジャズの雰囲気が強い『クール』のサスペンスフルでミニマムな味の好対照が、センス抜群。前者で多数の人物を場所を移動させながらも、いま誰がどこにいるのか分かる巧さは、さすがにアクション描写に長けたスピルバーグだ。名曲『トゥナイト』では、非常階段でのトニーの動きの見事さから素晴らしいラブシーン歌唱になるのは胸熱(対して、この直前の『マリア』は唯一、61年作に負けてるように思える)。バレンティーナの店の動くはしご(何て言うんだ?)の『パリの恋人』(1957)みたいな使い方で「これは」と思わせたスタンリー・ドーネン監督への傾倒は、『アイ・フィール・プリティ』でみごとに結実。『サムホエア』を「あの人」が歌うのも素晴らしいアイデアで、震えが来た。
そしてやはり、ダンス・パーティのシーンは、まんまと監督の手中に陥る快楽を堪能させてくれる。『レディ・プレイヤー1』(2018)で青春映画の世界に突入したスピルバーグが、ミュージカルの様式性とドラマ的な緊張感が相互作用する中で、全霊を傾けて作り出す「ラブ・ストーリーの出会い」。互いに見初める沈黙の時を賑やかな曲をしっかり流して堂々と見せる大胆さ。急造舞台の裏で近づく二人に通う恋の電流の密やかなエネルギー。「よくぞここまで」と堪能させる恋愛のスペクタクルだ。
ラテン系に濃い顔のレイチェル・ゼグラーは彼女あってこその2021年ウエスト・サイドのマリアと思わせられ、実に愛らしく、そして哀しい。トニーのアンセル・エルゴートは『ベイビー・ドライバー』(17)の青年だが、『戦火の馬』(11)のジェレミー・アーヴァインなどに通じるエリオット少年以来のスピルバーグの男の子顔(ある意味、マリアはトニーにとっての E.T. である)。非常に素直な感じの歌声もいい。あと、リフ役のマイク・ファイストが格好良く、いかにもこれから人気が出そうだ。そしてやはり「あの人」の登場は嬉しい。
大作にありがちだが全体に少し長いものの、これは割と正当化された長さだと思う。気持ちよくお腹いっぱいになれる。ラストの演出は満点とまでは言わないものの、あそこでスローモーションを使わないのは、当然ながらスピルバーグ、分かってらっしゃる。
「異邦人を描く作家」としてのスピルバーグ作品としても筋が通ってるし。何よりも、全体にみなぎる活劇精神が嬉しい。ダンスもそうだが、先述のトニーの非常階段のみならず、若者たちが金網を猛スピードで這い上がるのは、本当に気持ちいい。