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ジョン・フォードおススメ10本

書き下ろしです。

本ブログのために自分の過去の Facebook を漁っていて、こんなのを見つけた。日付は2015年2月1日。

今日はジョン・フォードの誕生日なので、いま思いつく10本を挙げます。
三悪人』『長い灰色の線』『周遊する蒸気船』『アパッチ砦』『捜索者』『静かなる男』『四人の息子』『荒野の決闘』『わが谷は緑なりき』『黄色いリボン』

駅馬車』(1939)や『怒りの葡萄』(40)が入ってないことからも、ベストというつもりでもなかったんだろう。そのときの気分で選んだおススメ10本ということかな。このときは未見だった『幌馬車』(50)や『荒野の女たち』(65)『モガンボ』(53)を知ってしまった今は…いやいや、西部劇以外のフォードのひとつの傾向と言える軍記もの、特に海や島を舞台にしたのが入ってないぞ…なんて考え出すと、終わらなくなる。
それよりも、これはこれで間違いなく勧められる10本なわけだから、それぞれに短いコメントをつけてみるのもいいだろうと思った。

三悪人』(26)
フォード無声映画西部劇の大傑作。無声映画に疎いひとも、ぜひ観て欲しい。目の覚めるような見せ場と、西部男の心意気。タイトルは黒澤明の映画を思わすよね。実は物語には『七人の侍』(54)的要素もあるのだ。若き黒澤も夢中で観たんだろう。無声映画時代のフォード映画ではおなじみのJ・ファレル・マクドナルドの素晴らしさ!

長い灰色の線』(55)
子供心に「日曜洋画劇場」での淀川さんの名解説が残った一代記もの。老境にさしかからんとするフォードの伸びやかな語り口に微笑みながら観ていると、次第に物語は陰影を深める。病床の愛妻メリーが窓から若い兵士たちを見るところでじんわりきていると、ラストはもう涙腺決壊。思い出すだけでヤバい!

周遊する蒸気船』(35)
ウィル・ロジャーズ三部作の1本で、フォードの喜劇監督としての手腕を堪能し切ることのできる本当に楽しい映画。クライマックスの蒸気船レースでは、あの手この手で盛り上げてくれる。バートン・チャーチル演じる "ニュー・モーゼス" のおかしさ! ヒロインのアン・シャーリーも魅力的で、彼女に船の舵を任せるのが良いんだな。

アパッチ砦』(48)
ジョン・ウェインヘンリー・フォンダというフォード映画主役級の顔が揃った騎兵隊もの。この二人が対立するんだからドラマチックですよ。クライマックスの戦闘シーンの苦い悲劇は、フォードの翳りある個性。ラストは深く静かな感動が残る。一方、子役から成長したシャーリー・テンプルの溌溂とした魅力にも注目。

捜索者』(56)
この映画の最初と最後を語るのに「美しい」という言葉以外を探すのは難しいぐらい、本当に決定的に美しい孤高の名品。だがもちろん、鬼神と化したジョン・ウェインの復讐譚という通俗的な面白さもある。インディアン娘となってしまった姪のナタリー・ウッドを追い詰めたウェインが、最後には…ここは映像で観て欲しい。

静かなる男』(52)
アイルランドの自然の中で繰り広げられる祝祭のような映画で、「観る」というより「浴びる」といいたくなる。主演のジョン・ウェインもだが、モーリン・オハラが文句なしに素晴らしく、これにフォード的大男の代表、ヴィクター・マクラグレンが乱暴に絡むのだからたまらない。堂々たるラブ・シーンは『E.T.』(82)でも引用された。

四人の息子』(28)
第一次世界大戦を背景にヨーロッパの田舎町の母と息子たちの運命を描くフォードの無声映画の傑作のひとつで、情感あふれる語り口に涙にじむこと間違いなし。また当時のドイツ表現主義の影響を受けた映像は意欲的で、とても印象深い。郵便配達夫のユーモラスな描写も、いかにもフォードらしい。

荒野の決闘』(46)
有名なOK牧場の決闘を中心に名保安官ワイアット・アープの話を、ヘンリー・フォンダ主演で情緒的に描いた傑作。子供の頃にテレビで観て、アープがヒロインのクレメンタインと腕を組んで教会へと歩いていく、ただそれだけのシーンで感動したのは新鮮な体験だった。もちろん決闘シーンもしっかりと面白い。

わが谷は緑なりき』(41)
ウェールズの炭鉱町の家族の物語。『天空の城ラピュタ』(86)の炭鉱町は本作の影響下にあるのはまず間違いないだろう。宮崎駿監督が2014年のアカデミー賞で会って感動したというモーリン・オハラは、本作のヒロインのひとりなのだ。観終えた後は "How Green Was My Valley" と原題を口にするだけで胸が熱くなるだろう。

黄色いリボン』(49)
『アパッチ砦』と同じく騎兵隊ものだが、こちらはもっと明朗なカラー作品。老け役を演じるジョン・ウェインがまず良くて、最初の方の妻の墓参りシーンでもうグッときてしまう。一方、ベン・ジョンソンの派手な馬の乗りこなしには胸が躍る。何度も見返したくなる様々な魅力の詰まった傑作だ。

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