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『女ガンマン 皆殺しのメロディ』(1971)

Facebook に 2020/ 2/ 4 に投稿した記事に手を加えたものです。

バート・ケネディ監督作『女ガンマン 皆殺しのメロディ』をDVDで。初見。71年のイギリス西部劇ということだが、監督・キャストとアメリカ人揃いなので、少々マカロニの影響を受けたハリウッド西部劇ぐらいの気分で観ることができる。
クェンティン・タランティーノが『キル・ビル』(2003)『キル・ビル2』(04)を作るのにインスパイアされた作品としても、有名だ。

復讐に燃える女性(ラクエル・ウェルチ)が名うての賞金稼ぎの男(ロバート・カルプ)に銃の使い方を教えて貰うという趣向が面白く、彼女用の銃が作られていく様子と訓練がカットバックするところなど、映画の語りの楽しさだ。
後半になって賞金稼ぎの「教え」が、ここぞというときにナレーションで重なるのも、ツボ。『ファイヤーフォックス』(1982)で、主人公の飛行士がピンチに陥ったとき、脳裏に博士の「ロシア語で考えろ」の言葉が蘇るあの呼吸だ。
ふたりのほのかな愛の描き方もよく、銃職人の工房が海辺にあるのをうまく生かしている。ヒロインがバルコニーからのロングショットで賞金稼ぎが子供と遊ぶのを見つめ、役割を逆にしてそっくり同じようなシーンを繰り返す。それぞれにおいて、バルコニーには人情味のある銃職人がいて、見つめる心情に言葉を添えてやる。
こういう人情家の役をクリストファー・リーが演じるのは珍しい。このひとが出るのがイギリスっぽいところかな。imdbによれば唯一の西部劇出演とのこと。

そういうわけで充分おもしろい映画ではあるが、傑作というわけではなく、作り手がヒロインよりも男たちに気がいっちゃってるのは明らか。憎むべき仇であるはずの三兄弟の方がイキイキしちゃってるんだもの。
悪役を丁寧に描くというよりは、憎めない西部の荒くれ者をユーモラスに描く…みたいになっちゃってる。役者がアーネスト・ボーグナインを筆頭に西部劇が身についたような面々だからねえ。馬さばきひとつをとっても、こっちの方が撮ってて楽しいというのが、見え過ぎちゃってる。
一方ラクエル・ウェルチはというと、明らかに乗られてる馬がむずがってるように見えるショットがある。夫とふたりで馬牧場を営んできた役として、まずいでしょ。彼女自身、ごく最近観た『愛すべき女・女たち』(67)のちゃっかりした娼婦役の方が、断然生気があった。よく頑張ってはいるのだが。

それでも荒野を馬で行く場面はさすがのバート・ケネディで、画面ごとに西部劇ならではの味にあふれている。最近のアメリカ西部劇『荒野の誓い』(2017)と比べても、その違いは歴然だ。きれいな風景の中をただ馬で歩かせたり走らせたりするだけじゃダメなのだ。
こういう風に進ませて、ここから、この光で撮る。無声映画時代より長年に渡ってアメリカ映画の職人たちが、自然と身に着け、伝えてきたコツ。それが分かってる西部劇。

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女ガンマン・皆殺しのメロディ(字幕版)