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ジェニファー・ジョーンズの出世作『聖処女』(1943)

Facebook に 2022/ 1/15 に投稿した記事に手を加えたものです。

ヘンリー・キング監督作『聖処女』。
ドライヤー特集で最近リバイバル公開された『奇跡』(54)にも通じる宗教ファンタジーで、名高いルルドの泉の奇蹟を描く。
19世紀なかば、フランスの片田舎に住む純真な少女ベルナデッタは、村のはずれの洞窟のそばで聖母マリアとの出会いという奇蹟を経験する。最初は疑われたが、次第に彼女の曇りなき魂の言葉に人々は動かされ、やがてその地は聖なる泉を湧かせる。一方、ベルナデッタは修道女となるのだが…。
主演はこれが出世作となったジェニファー・ジョーンズ。品格を保ちつつときに大胆さに振れるキング演出が見事で、やはり映画史上最大級の監督のひとりだと思う。アーサー・ミラーの美し過ぎる白黒撮影が、人物の表情を細やかに捉え、目に焼きつく凄いアップが頻出する。
宗教的な敬虔な雰囲気漂う一方で、ハリウッド娯楽映画らしい俗な大衆性が共存するのも面白い。ジェニファーがメイクばっちりなのは許すとしても、奇蹟のシーンでは聖母マリア(演じるはリンダ・ダーネル!)が『モスラ』(61)の小美人みたいに堂々と登場するのには愕然とする。真面目に宗教を考えるひとが怒っても仕方ないだろう。『奇跡』だけじゃなくベルイマン処女の泉』(60)などと比べても、大衆向けの絵物語なのだ。他のシーンの格調の高さ、ドラマとしての厳格さが、いいかげんな作り方では達成できないものだけに、この大衆性への割り切りは驚くばかりだ。
神父をチャールズ・ビックフォード、検事をヴィンセント・プライスが演じ、さすがの味わい。ヒロインの母親アン・リヴィアやきつく当たる修道女グラディス・クーパーなど、中高年の女性たちの顔も素晴らしい。