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75分の秀作サスペンス『三人の狙撃者』(1954)

Facebook の 2021/12/27 の投稿に手を加えたものです。

Amazon Prime でルイス・アレン『三人の狙撃者』(54)。75分でバシッとまとまった娯楽サスペンスで、実に面白い。
"Suddenly" という変わった名前の田舎町に大統領が来るという異常事態が、保安官以下数名にのみ伝えられる。それに先立って三人の暗殺団もやってくる。彼らは狙撃に最適な高台の一軒家に乗り込み、家族と居合わせた保安官を捕虜として、着々と計画を進める…。
物語上の主人公に当たる保安官はスターリング・ヘイドンだが、誰で見せる映画かというと暗殺団リーダーのフランク・シナトラだ。仕事のできるプロながら殺人にとり憑かれた異常者という設定で、粗野な殺気を漂わせ続ける。休みなく動き続けるのが作戦進行の統率者としては理にかなった行動なのだが、映画全体の不穏なリズムを一身に体現している。ときたま異常者の顔を画面の正面むいて見せるのはやりすぎな感じもするが、シナトラの顔がいいので見てられる。死体を足蹴にするのも、ヒロインにわざと銃を渡すのも、憎々しくて良い。歌舞伎でいうところの色悪だ。
囚われの者たちがいかに暗殺団を撃退するか。それがいかに難題であるかをしっかりと見せ、でも逆転劇に-少なくとも映画として見ている限りは-納得させられるだけの工夫は凝らしている。用意された小道具が伏線としてみごとに回収されていくのは、観ていて快感だ。非常に気の利いた、練られた脚本だと思う。アレン演出も芝居のさばきからカメラ位置、高さまで、ベストを尽くそうという意欲が見られる。
ヒロインのナンシー・ゲイツバッド・ベティカーの傑作西部劇『決闘コマンチ砦』(60)のひと。すごい美人だが、モデルではなく女優の雰囲気のあるひとだ。名前、覚えておくようにしよう。
彼女が戦争未亡人であることは、シナトラが戦争で心を壊した者であることと共に、映画に暗い影を落とす。こうしたさりげない「社会派」的色付けも、実は映画を「面白く」するためのテクニックなのだ。

Amazon Prime Video で観る


三人の狙撃者(字幕版)