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或日の鈴木清順演出

Facebook の 2017/ 2/23 の投稿に手を加えたものです。

実は俺、鈴木清順監督の『ピストルオペラ』(2001)に出てるんですよ。
幻想シーンに登場する亡霊たちのひとり。プロデューサーの片嶋一貴によるキャスティングで、高橋洋成田裕介監督らと共に調布の日活撮影所に呼ばれました。

だだっ広い屋内スタジオにぽつんと組まれた水一滴無い舞台装置のような三途の川、亡霊たちは渡し船の上に横一列に立つんだけど、まずそれらの顔を正面から撮ってから、次は反対側に回る。
でも清順監督は、カメラ位置を変えようとしない。
「はい皆さん、そのまま回れ右して下さい」
と言うんで、当然、理屈に合わないですよね。並び順が逆になっちゃう。
一緒に並んでいた外国人の役者さんなど「Crazy…」って呟いてましたが、俺と高橋は「ああ…(清順だねえ)」と目を交わし合いました。

出番はすぐに終わり、しばらく見学。
当時はまだ監督デビュー前の樋口真嗣氏が特撮担当で、隅の机でノートパソコンで合成イメージを作っていて、興味深かったです。
実際にはこういう感じの三途の川になる-というのが、リアルタイムで確認できるわけですね。
美術の木村威夫氏が樋口氏に近づいて、ニコニコしながら「監督があなたのこと褒めてたよ」とか、仰ってました。

一方カメラは、川で杭に掴まってる江角マキコに向けられてます。
そこで清順監督、「ちょっと芝居つけてみようかな、まずあっちの方を見て、それからちょっとうつむいて…」などと細かく指示。
江角嬢も、懸命に、言われた通りにやりました。
それを見るや、すぐさま「あ、段取りになっちゃったね。じゃいいや、好きにやって下さい」。
これは演出のあり方としては分かりますが、役者には残酷。江角嬢も「…え?」という顔をしていました。
江戸っ子の切り捨ての早い巨匠のやったことなんで、若い監督志望の方などは真似しちゃダメですよ。
違うと思ったら「そうじゃなくて…」と、ちゃんと説明しましょうね。

ちなみに、役者側の話で言うと、こういうときに大事なのは言われた意味を考えて演じることではないと思います。
清順監督みたいなひとが相手なら、なおさらです。
考えたら、それもまた段取り臭くなりかねないんですよ。
言われたときに「あ、そういうアレが見たいのね」と瞬時に判断する反射神経と、自然に動いてみせる技量です。
これはとっても難しい…。でも、できるひとは確かにいるんです。

あと、清順監督はカットの声をかけるのが、めちゃくちゃ早かったですね。
普通は必要な分だけ撮りきったら、編集時のノリシロ分の余裕をもってカメラを止めるんですけど、すぐに「カット!」
これは実は日本映画がプログラム・ピクチャを量産してた頃を経験してるベテランにはよくあることらしいのですが、それにしても早い感じがしました。若松孝二監督でも、もう一瞬間をおいて「…カット! はい、そゆこと!」と言ってたような気がするなあ。
こういうのも、清順映画のリズムの一因なんじゃないですかね。