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東映実録路線を予告する『日本暴力団 組長』(1969)

Facebook の 2019/ 2/16 の投稿に手を加えたものです。

録画しておいた『日本暴力団 組長』を観る。初見。
深作欣二監督が『仁義なき戦い』(73)で東映実録路線を開花させる4年前の69年作だが、すでに現代ヤクザの陰謀渦巻く勢力争いをリアルな暴力シーンを交えて描いており、実話に取材した部分も多かろうという印象で、萌芽以上のものが見られる。
一方で主演は鶴田浩二とあって、昔気質の侠客イメージを引きずっており、ドラマ部分はどことなく時代劇的でもある。あくまでも過度期の作品であり、その後『人斬り与太』(72)のチンピラ臭い八方破れを経て『仁義なき』への変容があるわけだ。
それらの作で活躍する菅原文太は、ここでは鶴田の一の子分。前半で死んでしまうのだが、充分にしどころのある儲け役。他に内田良平安藤昇若山富三郎などが見せ場を与えられ、いろんな役者の持ち味を楽しめる集団エンタテインメントにもなっている。敵役の内田朝雄の大親分が、『仁義なき』の山守親分の出現を予告させるズル賢い雰囲気を漂わす。
本編中随一の見せ場は、鶴田が捕らえられた子分を救うため、若山演じる狂気の組長相手に我慢に我慢を重ねるところ。ここに死んだ文太の妹が入ってくるのは流れとしては無理矢理の感もあるのだが、シーンに見事なふくらみをもたらしている。
若山が鶴田を殴り、ハッとした妹が思わず前に出ようとするのを内田が止め、それでも出ようとするのをまた止める(つまり、行くな!行くな!と、二回止められる)。そのカットを経てさらに暴力的になる若山に、また前に出ようとして今度は一回で止められる。文章でうまく伝わるか分からないが見事なリアクションのつけ方で、場のドラマ性が高まるのだ。これがあって、後半の若山の心境変化が生きる。
直後に鶴田の女となるこの文太妹を演じたのは、磯部玉枝(別名 一色美奈)という女優。不勉強にして知らなかったし、調べたら出演作も少ないのだが、美貌も色気も素晴らしい。
ただし、それ以降の展開は安藤演じる鉄砲玉の破滅が見応えあるのを除けば、やや失速気味か。広げた風呂敷を無理にたたんでいる感があって、ちょっと惜しい。ラストの不条理ともいえる空虚感は、少し ATG 作品的な時代の空気を感じさせた。

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日本暴力団 組長