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独自のクライマックス『ハケンアニメ!』(2022)

Facebook の 2022/ 6/ 4 の投稿に手を加えたものです。

吉野耕平監督作品『ハケンアニメ!』を観る。
同名の小説を原作に、1クールのアニメを任された吉岡里帆演じる新人監督の奮闘と、彼女に関わる人間模様を-ライバル番組関係者も含めて-描いていく。なので一応、群像劇の妙味も狙っていて良い役者を揃えているのだが、ドラマ部分はいまひとつこじんまりとしてしまったのでは。
特に一対一の会話になると、セリフに書かれた意味以上の何か(空気感とか次につながるスピードとか…)が、映画をうねらせることは無かったように思う。シナリオを消化するのに精一杯のテレビドラマのような(テレビドラマが全てそうだという意味ではない)停滞感があった。
仕事の場で常に人々が動きながら最小限の説明で各々の個性を浮かび上がらせ、一対一の会話はここぞというところでのみ生かされていく-そんな見事な例を『トップガン マーヴェリック』(22)で観たばかりだったのは、いささか不利だったかも知れない。でも例えば主人公がアイドル声優の真摯さを知って関係が良くなるのなど、わざわざ会話場面を作らず、仕事の現場でバシッと見せる方がいいんじゃないかと思う。
いやいや、あそこで「ごめんなさい!」って頭下げるのがこの主人公らしくていいんですよ!-という意見もあるかも知れない。でも、そんなことをしそうなひとなのは充分に伝わってるんだから、わざわざやらせることは無いと思う。動きの中で見せてしまえば、それはそれで納得できるはず。シャキシャキと進めなきゃ主人公の「追い詰められ感」も出ないよね。直前で声優のインスタ(だったっけ?)を見て戻るだけのシーンをわざわざ作るのも、段取りすぎて疑問が残る。映画が遅い印象になる。
とはいえ盛り上げるべきところはしっかりと盛り上げていて、吉岡とライバルの人気監督、中村倫也の対談イベントのシーンはなかなか見せるし、そこでも垣間見られたこの映画用に-かなり本気で-作られたアニメと実写の芝居が交錯するのは、終盤、独自のクライマックスを形成する。ミュージシャンものの映画のライブのようにアニメで盛り上げるわけで、珍しい狙いだ。これだけでも観る価値がある。
同時に、主人公がそこまでのドラマで得たものや問題としたものなどが、もっと具体的にアニメに反映されても良かった気がする。精神的に救われるものを作ろうとしてるのは大前提として、ここはあざとく「あれがこう生かされてるのか!」という堂々たる伏線回収をしても良いのでは。実のところ、ドラマ部分での課題がアニメではどうなったのか-という点では、ライバル監督の方が「なるほど」と思わせられた。
吉岡はじめ主要キャストはいずれも力演。天才的な原画家小野花梨と、長老(?)的な脚本家の徳井優が儲け役。ラストの柄本佑のアクションはアルトマンの『ロング・グッドバイ』(1973)か。ちょっと違う気もするが、ラストだし後ろ姿だし、やっぱりそうなのかなあ。