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荒野の狂気『デッドロック』(1970)

Facebook の 2021/6/8 の投稿に手を加えたものです。

K's cinema でローランド・クリック監督作『デッドロック』(70)。
1970年のカンヌ映画祭に招待されたニュー・ジャーマン・シネマの異色作。戦争の危険迫る中東の砂漠をアメリカの荒野に見立てて撮影し、照りつける太陽のもと、一癖ある人物たちが血と火薬の匂いにのたうち回る狂気の世界を作り上げた。

冒頭、砂まみれの荒地をロングで男がフラフラと歩いてくるマカロニなショット。しかし近づいてくると現代劇の服装、片手にはマシンガン、片手にはジュラルミンのケース。傷ついた男は砂に足を取られて岩場を転びながら進み続ける。一台のトラックが通りかかったとき、男は気絶同然に倒れていた。降り立った汗臭い運転手がジュラルミンケースを開けてみる。レコード盤と、うなるような札束。運転手はケースを奪い、両手で大石を持ち上げて男を殺そうとするが…。
どうなると思う? …そのまま石を振り下ろす? うん、その展開もありだ。それで男がなぜか生き残り、金を追うというのもありそう。…いやいや、気絶してたように見えた男は素早くマシンガンを向ける。その展開もありだね。撃っちゃうのも当然、ありだ。
でもね、どっちでもないんだよ。次の瞬間、男は仰向けに倒れたまま、ズルズルと斜面を滑り落ちていくんだ。それで、運転手は殺すのを止める。

参っちゃうよ。滑り落ちてくショット。オフビートとかいうのじゃない、もっとヤバい、何が起きるかわからない事件性が映画を支配してる。
そして一部のヨーロッパ人に見られるジム・トンプソンとかハドリー・チェイスみたいなアメリカン・バイオレンス小説への偏愛が、マニアックに横溢していて、突き抜けた無国籍アクション性を獲得している(まあ、チェイスはイギリス産のアメリカン・バイオレンスだけど…)。

登場人物たちは金に狂ってるのも分かるし、性格もハッキリしてるのに、場面場面では何を考えているのか、いまいち分からない。そこが逆にいいというのは、才能のなせる技だ。
傑作である。音楽はCAN。

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デッドロック(字幕版)