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ジャック・ターナー『硝煙』(1956)

Facebook に 2021/12/3 に投稿した記事をもとにした書き下ろしです。

ジャック・ターナー監督の西部劇映画、先に投稿した『インディアン渓谷』(46)に続いて『硝煙』(56)を観る。

舞台は南北戦争突入直前の北部コロラド州デンヴァーロバート・スタック演じる主人公は金鉱の権利で儲ける事業を計画するが、やがて戦争が勃発すると他の南部出身者と共に追い詰められていく…。
主人公に実業家的なところがあるのは『インディアン渓谷』とも共通するが、流れ者のガンマンとしての謎めいた雰囲気もある。この設定にスタックのやや冷たそうな、端正なマスクがよく似合う。ちょっと他のウエスタン・ヒーローとは違った雰囲気だ。
とはいえ格好いい銃さばきが堪能できる見せ場は、冒頭の岩場の撃ち合いから、いくつか用意されている。これだけでも主人公が地味だった『インディアン渓谷』よりも、気に入る方も多いのではないだろうか。ダイナマイトを使った南部民たちの脱走シーンなどのアクションもいい。

トップ・クレジットはスタックではなくヴァージニア・メイヨ。街に店を開きにやってきた裕福な婦人を演じている。
当然主人公と惹かれ合うのだが、作り手の気持ちが入ってるのは二番手ヒロインの酒場女、ルース・ローマン。メイヨがもう少し若かったら、こっちをやってたであろう役柄だ。登場してすぐ、階段を登りかけたスタックに下から見上げて話しかけるショットの、華やかな色気。トランプ勝負で悪役レイモンド・バーを裏切るときの、決然とした表情。役者冥利に尽きるような「しどころ」に満ちていて、それだけに悲劇的な運命にショックを受けるわけだが…。
その悲劇の原因であるバーの悪役ぶりが、ちょっと凄い。画面に収まっただけで禍々しさが漂う怪物。この人物造型は、さすがホラー/サスペンスを得意としたジャック・ターナーだ。西部劇の中の極悪人物というと、マカロニ・ウエスタンに掃いて捨てるほど出てくるが、このように品格ある巧みな筆致で描きあげられた悪の肖像には、滅多にお目にかかれない。
主人公が養おうとする少年のある種の痛ましさも含めて、全体に、時代の緊張が漂う舞台での人物描写が見事で、飽きさせない。

ジャック・ターナーには他にも、ジョエル・マクリーがワイアット・アープを演じる『法律なき町』(55)や、同じくマクリー主演の『星を持つ男』(50)などの西部劇もあるようで、観てみたい。