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お気楽映画『恋するプリテンダー』(2023)

書き下ろしです。

アメリカ映画のがっつり肉食系ラブコメでも観るかと、いかにもそれっぽいウィル・グラック監督作『恋するプリテンダー』(23)へ。ヒロインがローリング・ストーンズの『アングリー』のMVで元気にセクシーさを振りまいていたシドニー・スウィーニーというのも、期待ポイントだ。

物語は、誤解がもとで反目し合う仲になった男と女が、なりゆきでオーストラリアで開かれる女の姉の結婚式(同性カップルという設定)に出席。あれこれ事情が重なって恋人のフリをすることになるのだが…というもの。
もちろんやがては本当に愛し合うのが映画のゴールで、それまでの二転三転を楽しむという、まあラブコメらしいラブコメだ。
男の方は『トップガン マーヴェリック』(22)でパイロットのひとり "ハングマン" 役を演じたグレン・パウエル。シドニーとともにアメコミから抜け出たみたいな大味にセクシーな肉体を、晒しまくってくれる。

冒頭(タイトル前)のふたりが出会って、いちどは結ばれて、憎しみ合うまで…の流れがいい。
さまざまな趣向を散りばめつつ、キャラクターをみごとに活写し、弾むような気持ちいいテンポで見せてくれる。脚本もすごく考え抜かれており、娯楽映画にとって「ツカミはOK」というのがどんなに大事かを教えてくれる。

だが、本題に入ってからは、最初の快調さは持続しない。
ふたりが反目しあっているのをそれほど面白く見せてはくれないし、ストーリーを語っていく上での「これはどうなるんだろう?」というサスペンス感もいまひとつだ。主役以外のキャラクターも役者たちも、好感は持てるのだが、思わず身を乗り出すほどの魅力には欠ける。

だがまあ、観る前に期待した程度の面白さを下回ることはないし、からっとした明るさを保ったまま、「そこそこ」の面白さを維持したシーンの連続で楽しませてはくれる。
傑作ではないことが確定してからも、「これはこれでいいじゃないか」とお気楽に、並のエンタテインメントに身をゆだねるのも、映画の楽しみのひとつだ。

そんな中で盛り上がってくるのは、大型クルーザーでの船上パーティになってからで、ふたりは「付き合い始めた初々しいカップル」を演じるために、船首で今どき誰もやらない『タイタニック』(1997)ごっこを演じてみせる。この時点でもうヒロインが海に落ちるのが予想されるわけだが、そのタイミング、落ち方がなかなかいい。
それからの展開はもっと良くて、「こうくるか!」という感じで一気にノセられてしまう。
ラブロマンスとしては(『タイタニック』の「飛んでる」を踏まえたような)視覚的に最高の趣向を用意してるし、飛行機の中で聞こえた音楽の伏線も回収しつつ、(オーストラリア観光映画としては)背景のシドニー・オペラハウスを生かしてみせて、心憎いことこの上ない。ここでしっかり「この映画、観た甲斐があったじゃないか」と思わせてくれるのだから、商品としてしっかりしてると言わざるを得ない。

その後、もうひと波乱あって、ラストにはもうひとクライマックスあるのだが、ここは先ほどの海に落ちてからほどは盛り上がらない。
しかしまあ、そこそこ派手で楽しく、そこからなだれこむフィナーレは、原田知世主演の『時をかける少女』(83)のエンドクレジットを思い出させる祝祭性に満ちたものだ。とりあえず、いい感じに頬緩めて映画館を後にすることができた。

しかしまあ、すぐに忘れるだろうな。そこがまたいいところなんだけどね。
ちなみに IMDb のトリヴィアによると、シェークスピアの『から騒ぎ』を踏まえてる部分が多いとのこと。読まなきゃ。