鑑賞録やその他の記事

アイダ・ルピノの実質監督デビュー作『望まれざる者』(1949)

書き下ろしです。

シネマヴェーラ渋谷アイダ・ルピノ特集でノン・クレジットながら実質初監督作品となった『望まれざる者』(1949)を観る。すでに他のアイダ・ルピノ監督作を全て取り上げたので(※注1)、これも外すわけには行かないだろう。
もともとはサイレント期から活躍する職人監督エルマー・クリフトンが撮るはずだったが、病気で倒れ、ルピノがほとんど撮ったといわれている。またルピノは、制作・脚本にも加わっている。
当初予定されていた題名 "Unwed Mother" が示すように、無知と向こう見ずゆえに未婚の母となってしまう少女の悲劇を取り扱っている。いかにもルピノ-というか、ルピノとコリアー・ヤング(※注2)のチーム-らしい社会派の題材だ。

それにしてもルピノ演出はこれが初とは思えぬほど才気と力強さに満ちていて、驚かされる。
例えば、ヒロインがどんどんこちらに向かって歩いてくるファースト・カットも強烈だが、すぐ後の赤ん坊を抱き上げてからの移動ショットの素晴らしいこと! ヒロインがピアニストと破局して、叩きつけるように弾くピアノの音が漏れ聞こえる中を夜道を歩き去るカットなども凄く、言葉に頼らずともカメラが役者を追うことで何とも言えぬエモーションが満ちてくるのが見事なのだ。
ラストはヒロインと彼女を愛した義足の男の追跡シーンになり、義足であんなに走れるのかとも思うのだが、ここはもう、見せ場として歌舞伎のかけ声でいう「たっぷり!」ってところで、息をこらして見るしかないだろう。荒唐無稽に近いかも知れないけど、ロケーション撮影の生々しさも効果的で、これぞ映画の力と感動してしまう。
もちろん会話による芝居シーンの役者たちの動かし方、それらを捉えるカッティングも適切で、確信あるクローズアップにも引き込まれる。スピーディに撮りながらツボを外さないプロらしさが、既に完成されているのだ。

ヒロインを演じるのは初期ルピノ監督作を彩る美少女、サリー・フォレストで、これが初主演作-というか、それまではダンスシーン出演ばかりだったので初ドラマ演技作-とは思えぬ大熱演。監督でも先輩女優でもあるルピノの指導に、よく応えている。
彼女を愛する二枚目どころのキーフ・ブラッセルも悪くはないが、むしろ印象に残るのは半ば悪役とも言えるピアニストのレオ・ペン。女に無責任でありながら、どうしようもない漂白者の哀しみも漂っていて、実に見せる。ピアノの弾きっぷりも見事なものだ。
このひとは赤狩りブラックリストに載り、映画界を干されてテレビ界に移ってからも役者としては敬遠され、テレビ監督に転身して活路を開いたという波乱の生涯のひと。ショーン・ペンクリス・ペン、そしてミュージシャンのマイケル・ペンの父親である。
他に役者では、アイダの妹のリタ・ルピノが、ヒロインの産院の同室の女性を演じて、なかなか印象深い。
ピノ監督とはこの後も組むリース・スティーヴンスの音楽も、雰囲気満点で素晴らしい。

なお本作を含むルピノ監督作品のほとんどは、この記事を書いた時点で YouTube で全篇視聴可能。興味あるひとは原題+制作年(本作の場合は "Not Wanted 1949")で YouTube 検索してみて欲しい。

注1:「アイダ・ルピノ監督作『恐れずに』(1950)『暴行』(50)『ヒッチハイカー』(53)」 および「アイダ・ルピノ監督作『強く、速く、美しい』(51)『二重結婚者』(53)『青春がいっぱい』(66)

注2:初期のルピノ監督作のパートナーとなった脚本家・プロデューサー。ルピノと共に社会性のある題材を低予算で制作するプロダクションを興した。また、1948~51年の間、ルピノの夫でもあった。