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アラン・ドワン監督の西部劇~『私刑される女』(1953)『逮捕命令』(54)

Facebook の投稿をベースに再編集し、加筆したものです。

シネマヴェーラ渋谷の特集「超西部劇」で、珍しくもアラン・ドワン監督の西部劇を2本、劇場で観る機会を得た。
無声映画時代の1911年にデビュー、50年代末まで(※注)アメリカ映画界で活躍した息の長い監督で、作品数は IMDb にリストアップされてるだけでも 415 本に及ぶ。現在でも比較的名が知られた作品というと、シャーリー・テンプル主演『農園の寵児』(38)ジョン・ウェイン主演『硫黄島の砂』(49)といったところか。
大ベテランではあったが世界的評価を得た巨匠というわけでもなく、自分もよく知らなかったので、「どんなものか」と『逮捕命令』(1954)を観に行ってみたのだが、これがもう滅茶苦茶に面白い。「ならば」と観た『私刑(リンチ)される女』(53)も手応え充分で、以下、鑑賞順に感想を記す。

『逮捕命令』は、とある西部の町を舞台にした冤罪サスペンス。
町に来てたった2年ながら人々の好意を集めるに至った好漢(ジョン・ペイン)のもとに、連邦保安官を名乗る男が殺人の逮捕命令を持って出現。2時間の猶予を願い出て何とか冤罪を晴らそうとするのだが…という話。
自分はペインの西部劇を観るのは初めてだが、鶴田浩二の真面目さにアメリカ男性の身軽さをまじえたような個性が良い感じだ。

最初は味方の多かった主人公がどんどん孤立無援の状況に追い込まれるのがシビアで、西部劇の "町民不信モノ" としては『真昼の決闘』(52)にも『大砂塵』(54)にも通じるところがある。調べてみると、脚本のカレン・デウルフは "赤狩り" の犠牲者だったらしく、最後に主人公が町民に恨みを吐く場面は、激しい怒りに満ちている。
一方で、「これでもか」という孤立無援状況が映画を面白くしているのも事実で、最後の最後まで手に汗握らせる。ドワンの演出も素晴らしい切れ味で、職人的な芝居の演出とテンポの良さだけではなく、誰もが目を瞠るあっと驚く横移動を見せたりしてくれる。

ペイン以上に素晴らしいのが悪役のダン・デュリエで、ほとんど彼の映画と言っていいほどの印象深さ。自分の非道までもペインのせいにしてどんどん事態を悪化させるのだが、狡猾に大衆を味方につけていくのが恐ろしい。簡単に人でなしになれる人間がそれゆえに巧みな扇動者となるのは、現代でも(というか、最近ますます)よく見ることではないか。
女性はヒロインのお嬢さん役リザベス・スコットよりも二番手の酒場女ドロレス・モランの方が断然良く、ドワン監督も一所懸命撮ってる感じがする。

『私刑される女』は南北戦争末期、両軍の中立地帯の町が舞台。
地域のボスが女市長だったり風変わりな趣向が盛り込まれている。また物語展開もあちこちに仕掛けがあって、楽しい仕上がりだ。

トップ・クレジットは『アパッチ峠の闘い』(52)などのジョン・ランドだが、実質的な主役は町に兄を訪ねてきたジョーン・レスリー
清楚なお嬢さんとして登場したかと思いきや酒場の女主人に変身、キャットファイトを演じたりみごとなガンさばきを見せたりして、大活躍だ。ランドとの恋愛も、しっかり描きこまれている。
タイトル "Woman They Almost Lynched" が意味するのも彼女だし、何より非常に魅力的なのに、女優としてのクレジットもオードリー・トッターに次ぐ二番手なのが解せない。ポスターも二丁拳銃のトッターの方が断然、目立っているし。
まあトッターはトッターで役柄的には逆に二番手ながら悪女をイキイキと演じていて、歌ったり、あっと驚く衣装替えを見せたりして、『逮捕命令』でも感じられたランド監督の「蓮っ葉好き」ぶりが伺える。中でも最初の歌のシーンの演出は、気合が入っている。

残虐な南軍ゲリラ団を率いて悪名高いカントレルを、このひとが出てきたら安心して観られる役者のひとりであるブライアン・ドンレヴィが余裕で好演。何でもカントレル役は二回目らしい。息巻くトッターを「もう引っ込め」とガンベルトを掴んで引っ張っていくのが、さりげなくも面白い。
またレスリーの仲間になる酒場女の三人組がいい味を出しているのだが、うち一人がエドガー・G・ウルマーの傑作B級映画『恐怖のまわり道』(45)の性悪女、アン・サヴェージだった。

始まってすぐのカントレル一味による駅馬車襲撃や、町の中での一味と北軍の衝突などのアクションはかなりの迫力。大回りのカーブを利用して追う側が二手に分かれたり、物凄い砂煙の中の正面衝突を見せたりして、演出も工夫に満ちている。
また南北戦争(あるいは戦後)ものといえば南部魂の歌「デキシー」の扱われ方がミソだったりするが、その点でもかなり面白い。

オープニング・タイトルからリッチな響きで酔わせる音楽は、スタンリー・ウィルソン。よく知らなかったのだが調べてみたら物凄い人で、この名前を知っただけでも観た価値はあったかも?
機会があれば本ブログで取り上げてみたい。

いずれもアラン・ドワン監督、60代後半になってからの作品だが、職人らしい早撮りでテキパキと仕事をこなしていったことが伺える。画面が停滞せず、思い切りがいい感じがするのだ。新しい要素を取り入れる感覚もあるし、他にも観てみたくなった。
なお 2025年 5月29日現在、『私刑される女』はアマプラで、『逮捕命令』は YouTube で観ることもできる。後者は "Silber Load 1954" で検索を。

注:最終作の "Most Dangerous Man Alive" は1961年度作品とされているが、58年には完成していた。その後ドワンは1981年に96歳で没した。

Amazon Prime で観る


私刑(リンチ)される女(字幕版)