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オリヴィア・デ・ハヴィランドの凄み

書き下ろしです。

オリヴィア・デ・ハヴィランドといえば、最初の印象は、自分も多くのひと同様『風と共に去りぬ』(1939)のメラニーだった。
主人公スカーレットの義理の姉で、献身的・良心的でありながらも自分を持った女性をみごとに演じきり、ハティ・マクダニエルと共にアカデミー助演女優賞候補になった(※注1)。観たひとのほとんどが-たとえスカーレットに共感できなくても-このひとのメラニーには好感を持ったのではないだろうか。

それだけに、その後で『ふるえて眠れ』(64)を観たときは衝撃だった。ロバート・アルドリッチ監督が62年の『何がジェーンに起ったか?』に続いて、往年の美人女優ベティ・デイヴィスに老いを強調するグロテスクなメイクを施して作り上げた恐怖サスペンスだ。
ここでのハヴィランドは後半で恐ろしい本性を露わにして、デイヴィスを暴力的に脅しつける。そのさまはほとんど男のギャングのようにも思え、メラニーとのあまりの違いに驚くとともに、一気にハヴィランドへの興味が高まった。

それで調べてみると、『レベッカ』(40)『断崖』(41)のジョーン・フォンテインの姉だとか(※注2)、姉妹ともに日本で生まれたとか、兄弟姉妹がそれぞれアカデミー主演女優賞を受賞した唯一の例だとか、それでいてめちゃくちゃ仲が悪かったとか、ベティ・デイヴィスとは私生活で親友だったとか、映画会社が俳優を縛る不当な契約について提訴して勝ち取った判例は「デ・ハヴィランド法」と呼ばれているとか、それは俳優だけでなくミュージシャンにまで恩恵をもたらしているとか、当時は約100歳で存命だったとか(2020年に104歳で死去)興味深い事実が次々と分かったのだった。
その多くは日本版 Wikipedia にも出典を明記して書かれているので、御一読をお勧めする。

こうしてオリヴィア・デ・ハヴィランドは、自分が古い映画を観るときに注目する名前のひとつになった。
デビュー作の『真夏の夜の夢』(35)は、同名のシェークスピア戯曲のマックス・ラインハルトとウィリアム・ディターレの共同監督による映画化作品だが、ここでのハヴィランドは出演時18歳。はつらつとした美少女だがどこか怒ると怖そうな感じもあり、ただのお嬢さんではない可能性を感じさせる。

その後、エロール・フリンとのいくつかのコンビ作などを経て、『風と共に去りぬ』で高評価を得てからは、意欲的に多様な役柄に挑戦するようになっていったようだ。
そのうちメラニー女優として違和感のない愛すべきヒロインを演じて忘れがたいのは、何と言ってもラオール・ウォルシュいちごブロンド』(41)だろう(※注3)。主人公ジェームズ・キャグニーに「つき合おう」と言われたときの表情の素晴らしいこと!

さて『風と共に去りぬ』『いちごブロンド』に加え、まだ美人女優だった頃のベティ・デイヴィスと共演した『追憶の女』(42)などにも見られるように、ハヴィランドのひとつの特徴に、もうひとりのヒロインとは対照的なタイプとして映画に深みをもたらす-というのがある。
その点で物凄いのが『暗い鏡』(46)で、二種類のヒロインを-双子という設定で-一人二役で演じてしまっているのだ。しかも、たまに特撮で二人に見せるとかじゃなく、ガッツリ絡む。
善意のメラニーも演じれば『ふるえて眠れ』の暴力女も演じる女優ハヴィランドの二面が映画の中で分裂したようで、しかもその境界が観ているうちに実に際どく思えてくる。いまそこにいるのがどちらの女か、設定上は分かっていても曖昧さが心をかき乱す。
綱渡りのように成立するスリル満点のドラマで、凄絶のひと言。ロバート・シオドマク監督のサスペンスとしても『幻の女』(44)『らせん階段』(45)に並ぶ一級品だ。

そして49年にはウィリアム・ワイラーの『女相続人』がある。これこそ今回のブログ記事を書くきっかけになった作品で、今年のシネマヴェーラ渋谷のワイラー特集で、スクリーンで堪能した。
ここでハヴィランドが演じるのは、資産はあるが魅力はない世間知らずのオールド(になりかけの)ミスで、がっちり固めた髪に浅黒いメイクで「冴えない女」になりきってるのが、まず凄い。それでもオリヴィア・デ・ハヴィランドなんだから、ちゃんと映画を支える主役の格を感じさせるのが、さらに凄い。そんな女が二枚目青年モンゴメリー・クリフト口説きを信じてしまったがゆえの「お嬢様残酷物語」なのだが、不器用で引っ込み思案の性格から怒りと恨みの塊に変貌するのが、究極に凄い。

変貌してから「気高く」なってしまう表情演技にも魅せられるが、前半、クリフトのアタックに文字通り及び腰になりながら惹かれていく感じはみごとで、二人の動かし方はワイラーの室内演出の極みだ。
そうかと思えば公園のベンチに座ったまま、危篤の父親に会うことを拒否する場面は、全く動かず、セリフも一言程度なのに、ひしひしと心の暗黒が伝わる。ここで真横からのカメラの方向を変えないワイラー演出の肝の据わり方にも感嘆させられる。

邸宅の階段の使い方の巧みさにも注目しておきたい。映画が始まってすぐ少女のようにときめいて階段を駆け下りる娘は、変貌の末、幽霊屋敷の女主人のような冷厳さでゆっくりと昇っていってしまうのだ。
ざっくり言えば階段を降りて外に出るつもりが昇って戻る女の悲劇であり、またヒッチコックの『サイコ』やキム・ギヨンの『下女』(60)のように「階段が怖い映画」の一本として位置づけることも可能だろう。

父親役のラルフ・リチャードソンも強烈で映画に出てくる最悪の父親ベストテンの上位入賞だし、ミリアム・ホプキンスも信頼の巧さ。
この映画でハヴィランドはアカデミー主演女優賞を獲得したが(※注4)、『暗い鏡』を踏まえ、のちには『ふるえて眠れ』があることを考えれば、もはや怪優と言ってしまっていい怖さを感じる。

実のところ、自分にはハヴィランドの重要作と思えるので未見の作はまだまだ多い。これから更にこのひとを「発見」していくのが、楽しみである。

注1:受賞したのはハティ・マクダニエル

注2:『風と共に去りぬ』の当初の監督だったジョージ・キューカーメラニーに考えていたのは、むしろジョーン・フォンテインだった。キューカーが『風と共に去りぬ』の監督解任直後に撮った『女たち』(39)で脇役ながら突然輝くシーンがあるフォンテインを見ると、それも頷ける。自分も容貌だけならフォインテインの方がメラニー役に向いている気がする。なお、フォンテインはスカーレット役に興味を持っていたため、メラニーは辞退して姉のハヴィランドを推薦したという話もあるようだ。

注3:『いちごブロンド』と同年に、ウォルシュとハヴィランドは傑作『壮烈第七騎兵隊』でも組んでいる。

注4:ハヴィランドにとって二度目の受賞。一度目は、『遥かなる我が子』(46)である。3年後に再度受賞というのはハードルが高いはずで、いかに高評価だったかが分かる。

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女相続人(字幕版)