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エルンスト・ルビッチ✕ジェニファー・ジョーンズ『小間使』(1946)

書き下ろしです。

シネマヴェーラ渋谷エルンスト・ルビッチ監督特集で、単独監督としては最後の作となる『小間使』(1946)を観る。
1938年のイギリスを舞台に、貧しい娘が小間使として雇われた上流階級の家で常識外れの行動で疎まれながらも、幸せを掴んでいく話。階級社会への風刺の効いたコメディで、ヒロインの得意技が配管修理というのが趣向になっている。

注目はルビッチと主役ジェニファー・ジョーンズの組合せ。
個性的な美人さんだがシリアス系の役柄が多く、ルビッチ的コメディエンヌにしてはしっとり系過ぎるかな…とも思っていたが。基本、巧いひとだけあって、世間知らずで天真爛漫な少女の魅力を存分にみせる。何かにつけワクワクしてるように見えるのだが、やり過ぎギリギリのところで空回りさせず映画全体の面白さに昇華していく演出はやはり超絶。
役者を扱うさじ加減が魔法のようだ。

男主人公の方のシャルル・ボワイエも素晴らしいのだが、ふたりが出会う冒頭の手応え十分のコメディ・シーン、ここではもうひとりの主人公に思えるエイムズ氏(レジナルド・ガーディナー)がその後は全く出てこなくなる潔さ、贅沢さ。これはヒロインが汽車で出会うおじいちゃん大佐(チャールズ・オーブリー・スミス)の使い方にも共通。
ことさら絢爛豪華を装わなくても、作っている気持ちが贅沢なのだ

ジェニファー以外のサブ・ヒロインとしては、モテモテの金持ちのお嬢さんが登場。知的で世慣れた感じは、『生きるべきか死ぬべきか』(42)『生活の設計』(33)等のヒロインの雰囲気に通じて、ジェニファーとは好対照。
んで、このヘレン・ウォーカーが凄く良いのだ。
部屋に入ってきたボワイエを追い出すために、ベッドで本を手にしたまま無表情で叫び声をあげてみせるところなど、最高。このひと、ジョセフ・H・ルイス監督の『暴力団(ビッグ・コンボ)』(55)ぐらいしか観てないけど(しかもメインのヒロインじゃなかったので覚えてないんだけど)、こんなに良かったんだ。精神分析医が当たり役という『悪魔の往く町』(47)や我が贔屓エラ・レインズと共演した『狂った殺人計画』(49)も観なくては。
んで、しばらくウォーカーのエピソードで引っ張って、ジェニファーの影が薄くなりそうなところから一気に巻き返す呼吸が、また心憎いのよ。

ラストは『昼下りの情事』(57)みたいになるのかな、と思ったけど、よりさりげなく展開しつつ、おとぎ話みたいに終わって幸せな気分。
そこに至るまで、各シーンにサスペンスが効いてるのは、流石と唸るコメディ作りのみごとな手本。ボワイエの(今で言うところの)ピンポン・ダッシュみたいな小ネタも、楽しい味付けだ。