書き下ろしです。
アントワーン・フークア『Michael / マイケル』(26)を観る。
亮と流星が歌舞伎役者になりきる『国宝』(25)のように、松ケンが漫画の登場人物になりきる『デスノート』(06)のように、映画の世界での "なりきり芸" が堪能できる一作。
その上で主人公の子供時代から歌と踊りを連発してミュージカルのように見せてくれるのかと思いきや、基本は(特に中盤ぐらいまでは)生真面目に人生ドラマを綴っていく。
レコーディングのシーンなどでもバックトラックをオフにして歌声だけを立ち上げることで、安易に観客を "ノラせない" というか、人間マイケルが "生きた時" を際立たせようとしている感じだ。
ただし、現実のマイケルには重要なはずの人物(ダイアナ・ロスやジャネット・ジャクソンなど)が何人か出せてないことからも分かるように、映画化が制約だらけだったせいか、どこかスケール感を欠いた(芝居としての)動きも広がりも欠けたシーンがポツンポツンと置かれていく感じがする。
まあ退屈はしないのだがドラマとしての弾みはいまひとつ。しかしながら、観ているとこれが、マイケルの閉塞的な日常を反映しているようにも感じられてしまう。これだけのスーパースターの人生の一幕一幕が、こんなにこじんまりとしてしまうなんて。
「さぞや寂しかったんだろうなあ」と思いながらも、一方で、「孤独のドラマでございますよ!」と盛り上げ過ぎないのがいいところかも-と思える。モデルとなった人物の特殊性と役者たちの頑張りが醸し出した不思議な味わいといえるのでは。
そんな中で救いは、お猿のバブルスよりもボディガードのビルとの年齢を超えた友情か。彼を雇ったときマイケルの因業な父ジョゼフ(コールマン・ドミンゴが好演)が「命がけで守れ」と命じるのが、ラストでビルがジョゼフに吐くセリフに生きてくる。
ここはさりげないながら最も劇的なところ。
他にドラマとしていいところを挙げれば、レコード会社の社長がMTVに電話する場面は-詳しくは書かないけど-演出的に特筆するものはなくとも、内容的に「おお!」と唸った。
やっぱりマイケル、黒人音楽史でも重要人物だよ。
後半に怒涛のように連発される "なりきりライブショー" は、やはり本作のエンタテインメント的な目玉。
既に評判になっている主演ジャファー・ジャクソン(マイケルの甥-というより、ジャーメインの息子!)の頑張りが実っていて、フルスロットルで歌い踊るうちに面影が本物そっくりになっていくのが、胸を打つ。もちろんマイケルの異常にシュッとした体型とは少し違うが、ここまで同じだと違うのもまた良しと言ってしまっていいだろう。生身の別人が懸命にやる無理矢理さもまた、映画の美学なのだ。
そして自分は、子供時代を演じたジュリアーノ・ヴァルディにも拍手を送りたい。"I'l Be There" のライブ・シーンは、素晴らしい臨場感を感じさせた。
あと2~3点。
MVの舞台裏は、"Thriller" よりも "Beat It" で共演したギャングたちとのダンス・リハーサルが断然、面白い。
マイケル周辺の実在の人物があまり出てこないのはやはり物足りないが、グラディス・ナイト&ザ・ピップスの登場は嬉しかった。若い頃のグラディスって、あんな感じだろうなと思った。
続編の噂は聞くが、これはこれでちゃんと完結してると思うので、今のところ特に観たくはないけど公開されたら…うーん、行っちゃうのかなあ?
だってマイケル、そんなに思い入れはないつもりだったけど、やっぱり観たらこれだけ文章、書いちゃうものな。