鑑賞録やその他の記事

エルンスト・ルビッチ✕ジェニファー・ジョーンズ『小間使』(1946)

書き下ろしです。 シネマヴェーラ渋谷のエルンスト・ルビッチ監督特集で、単独監督としては最後の作となる『小間使』(1946)を観る。1938年のイギリスを舞台に、貧しい娘が小間使として雇われた上流階級の家で常識外れの行動で疎まれながらも、幸せを掴んでい…

現代の戦争映画『ランド・オブ・バッド』(2024)

書き下ろしです。 ウィリアム・ユーバンク監督作『ランド・オブ・バッド』(2024)を観る。久々にハードなアメリカ製戦争映画で、手応え充分だ。 テーマはアメリカ軍特殊部隊デルタフォースの4人組による、南アジアの過激派ゲリラの巣食う島に捕らえられた諜…

オリヴィア・デ・ハヴィランドの凄み

書き下ろしです。 オリヴィア・デ・ハヴィランドといえば、最初の印象は、自分も多くのひと同様『風と共に去りぬ』(1939)のメラニーだった。主人公スカーレットの義理の姉で、献身的・良心的でありながらも自分を持った女性をみごとに演じきり、ハティ・マク…

大人の娯楽映画『国宝』(2025)

書き下ろしです。 李相日監督作『国宝』(2025)、題材的にも興味があり、周囲の映画好きの話題にもなったので、公開してすぐに観に行ったのだが。まさか二ヶ月半を経ても国内映画ランキングの上位にあるばかりか、興収100億突破がニュースになるとは、予想し…

53分の傑作『蜘蛛の国の女王』(2023)

書き下ろしです。 菊川の野心的な映画館 Stranger に、常本琢招(たくあき)監督の短編映画特集上映「ツネモト✖️4人のヒロイン」を観に行った。常本監督および上映作品については、公式サイトを参照して頂ければと思うが。今回は自分が特に心動かされた一本…

アラン・ドワン監督の西部劇~『私刑される女』(1953)『逮捕命令』(54)

Facebook の投稿をベースに再編集し、加筆したものです。 シネマヴェーラ渋谷の特集「超西部劇」で、珍しくもアラン・ドワン監督の西部劇を2本、劇場で観る機会を得た。無声映画時代の1911年にデビュー、50年代末まで(※注)アメリカ映画界で活躍した息の長…

25年ぶりの現在『少年』(2024)

書き下ろしです。 新宿のケイズシネマで旦雄二監督作品『少年』(24)を観る。この映画の特殊な完成までの道のりについては、公式サイトの下記の文章にある通りだ。 1999 年、国旗国歌法強行採決抗議デモの実景ショットにてクランクインした映画『少年』。2003…

ディランの目『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』(2024)

書き下ろしです。 ジェームズ・マンゴールド監督作『名もなき者/A COMPLETE UNKNOWN』(2024)を観る。 無名のボブ・ディランがフォーク界のトップ・スターとなり、ロックに突入して波乱を巻き起こすまでを描いた実録映画で、演じるのはティモシー・シャラメ。…

アネット・ウォーレンとハリウッドの影武者歌手たち

書き下ろしです。 シネマヴェーラ渋谷のダグラス・サーク監督特集で観た『誘拐魔』(1947)。ナイトクラブで歌われる "All For Love" って曲が、主人公のルシル・ボールとジョージ・サンダースの恋の駆け引きを効果的に彩っている(※注1)。 歌手役はエセルレ…

本田・円谷コンビの海洋ロマン『海底軍艦』(1963)『緯度0大作戦』(69)

書き下ろしです。 本多猪四郎監督・円谷英二特技監督の黄金コンビによる海洋SF『海底軍艦』(1963)『緯度0大作戦』(69)を、録画で続けて観た。後者は子供の頃に観たはずなのにほとんど覚えてないので、どちらも初見のようなものだ。 まず『海底軍艦』は、…

川越スカラ座ハロウィン映画祭『Z 〜ゼット〜 果てなき希望』(2014)

書き下ろしです。 川越スカラ座のハロウィン映画祭、2024年11月1日の最終日に駆けつける。 鶴田法男監督の相原コージ原作の旧作『Z 〜ゼット〜 果てなき希望』(2014)上映に、監督と特殊メイクの中田彰輝氏の和気あいあいとしたトークショー、中田氏が川越ま…

アイダ・ルピノの実質監督デビュー作『望まれざる者』(1949)

書き下ろしです。 シネマヴェーラ渋谷のアイダ・ルピノ特集でノン・クレジットながら実質初監督作品となった『望まれざる者』(1949)を観る。すでに他のアイダ・ルピノ監督作を全て取り上げたので(※注1)、これも外すわけには行かないだろう。もともとはサ…

アイダ・ルピノ監督作『強く、速く、美しい』(1951)『二重結婚者』(53)『青春がいっぱい』(66)

書き下ろしです。 シネマヴェーラ渋谷で開催中のアイダ・ルピノ・レトロスペクティブ「カメラの両側で…」で未見だった3本の監督作を観て、この麗しい女優が凄い監督だという確信を、ますます深めた。ということで本記事は、2023年7月4日の "アイダ・ルピノ…

『ギャング王デリンジャー』(1965)は映画をかっぱらう

書き下ろしです。 YouTube にテリー・O・モース監督作『ギャング王デリンジャー』(1965)が全篇あがってるのを、発見した。1930年代に数々の銀行強盗を繰り返した有名なギャング、ジョン・デリンジャー伝の映画の1本。同じ題材のものには、当ブログでも取り…

妻たちの離婚の旅『女たち』(1939)『パームビーチ・ストーリー』(42)

書き下ろしです。 シネマヴェーラ渋谷で、離婚を決意した妻が旅に出かけるという点で共通するハリウッド黄金時代の傑作コメディを二本。 うちジョージ・キューカー『女たち』(1939)は以前、無字幕のを睡眠不足で観たときに眠ってしまった。こんな風に、どん…

プレコード期最後の重要作『紅唇罪あり』(33)

書き下ろしです。 シネマヴェーラ渋谷が9月7日から「プレコード・ハリウッド」なる特集をやるらしい。ご存知ない方のために書くとここでの "コード" とは、宝塚歌劇のコメディ(※注1)の題材にもなったいわゆる "ヘイズ・コード" のことで。1934年からア…

黒沢清の風に吹かれて/立教大学での公開講演会

書き下ろしです。 さる7月27日の土曜日、池袋の立教大学タッカーホールの公開講演会「映画人との対話 VOL.2 ~映画監督・黒沢清氏を迎えて~」に行ってきた。司会進行は同大学の現代心理学部映像身体学科で教鞭をとる篠崎誠監督。これが隅々まで映画キッド "…

キャプラ&ミッシーの傑作『奇蹟の処女』(31)

書き下ろしです。 フランク・キャプラ監督作品で観た中で最高に好きな『奇蹟の処女』(1931)がスクリーンで観られるので、いそいそと同監督特集中のシネマヴェーラ渋谷へ。もちろん若きミッシーことバーバラ・スタンウィックの魅力を堪能する目的もある(※注…

胸を打つ傑作『空に聞く』(2018)

書き下ろしです。 今年の3月、以前観た『息の跡』(2015)が素晴らしかった小森はるか監督の新文芸坐での特集に出かけ、『空に聞く』(2018)『かげを拾う』(2021)を観た。いずれも初見だが、特に前者がかなりの傑作で、驚き、心奪われてしまった。 小森監督は…

お気楽映画『恋するプリテンダー』(2023)

書き下ろしです。 アメリカ映画のがっつり肉食系ラブコメでも観るかと、いかにもそれっぽいウィル・グラック監督作『恋するプリテンダー』(23)へ。ヒロインがローリング・ストーンズの『アングリー』のMVで元気にセクシーさを振りまいていたシドニー・スウ…

映画する人、奧山順市

書き下ろしです。 奧山順市の『我が映画旋律』(1980)を最初に観た衝撃は忘れられない。 ハイコントラストな白黒の7分間のフィルムで、メインのイメージは、黒地に素早く伸び縮みする白い横縞。伸びて画面端を過ぎるたびに不思議な音を立てる。突如、耳を聾…

生きる場を繋ぐ『夜明けのすべて』(2024)

書き下ろしです。 三宅唱監督の新作『夜明けのすべて』(2024)を観る。 PMS(月経前症候群)を患い、月に一度自分がコントロールできなくなってしまう藤沢美紗(上白石萌音)は、仕事に大失敗して失職。病気に理解ある新たな就職先で、パニック障害を抱え…

『すべて、至るところにある』(2023)、或いは、「ない」?

書き下ろしです。 マレーシア出身で大阪を拠点に活動するリム・カーワイ監督の最新作『すべて、至るところにある』を、渋谷のイメージフォーラムで観た。 バルカン半島で出会った女性エヴァ(アデラ・ソー)と男性映画監督ジェイ(尚玄)。ふたりは意気投合…

芸術的珍品『あるじ』(1925)

書き下ろしです。 2022年末に好評だったカール・テオドア・ドライヤー監督特集が、再び開催されている。今回新たに加えられた3作のうち『あるじ』を観た。初見。1925年、ドライヤーが30代半ばのときに母国デンマークで撮ったもので、フランスなどで大ヒット…

力作『窓ぎわのトットちゃん』(2023)

書き下ろしです。 八鍬新之介監督作『窓ぎわのトットちゃん』(23)を観る。言わずとしれた黒柳徹子の大ベストセラーの映画化で、黒柳は製作にも名を連ね、ナレーションも務めている(※注)。 勉強不足なことに自分はこの原作、読んでないのだ。ただしそんな自…

見事な綺麗事『PERFECT DAYS』(2023)

書き下ろしです。 ヴィム・ヴェンダース監督が日本で撮影し、役所広司がカンヌで最優秀男優賞に輝いた『PERFECT DAYS』(2023)を観た。 役所演じるひとり暮しの男、平山が、朝起きて車で出発し、渋谷各地の公園のトイレを清掃してまわる繰り返しの日々と、そ…

芸能の真髄『キャビン・イン・ザ・スカイ』(1943)

書き下ろしです。 ヴィンセント・ミネリの公式な監督デビュー作(※注1)『キャビン・イン・ザ・スカイ』(1943)を観る。ブロードウェイのヒット・ミュージカルの映画化で、アメリカ南部を舞台に登場人物は全員黒人という趣向だ。 お人好しのリトル・ジョーは…

驚くべき傑作『二日間の出会い』(1945)

書き下ろしです。 シネマヴェーラ渋谷で『二日間の出会い』(1945)。ジュディ・ガーランドが歌わない映画で、監督はこの年、ジュディと結婚することになるヴィンセント・ミネリ。実は自分、ミネリの有名作は『巴里のアメリカ人』(51)も『バンド・ワゴン』(53)…

映画どアホウ『野球どアホウ未亡人』(2023)

書き下ろしです。 某ソウルフラワー監督のオススメで、小野峻志監督作『野球どアホウ未亡人』(2023)を観る。 愛する夫を草野球練習中の事故で亡くした夏子は、夫の野球の師匠たる重野進に見込まれ、野球選手としての特訓を受けることになる。野球など気が進…

カルナータカ音楽映画『響け! 情熱のムリダンガム』(2018)

書き下ろしです。 レコードそして CD と音楽はディスクで聴く世代の自分も、時代に逆らえず遂に Apple Music に登録。以来、「昔ちょっと興味を持ったがのめり込むまでいかなかった音楽再発見の旅」を続けていて、最近はワールド・ミュージックのターンに入…