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活動大写真『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』(2023)

書き下ろしです。

クリストファー・マッカリー監督作『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』(2023)を観る。トム・クルーズ演じる超人的なスパイ、イーサン・ハントが活躍する人気シリーズの最新作だ。
今回、イーサンと彼の所属するIMFの仲間たちが挑戦するのは、意志を持って動き始めた高度な人工知能の破壊。いかにもアップ・トゥ・デイトな題材を、お宝(人工知能ソースコードにアクセスする鍵)の奪い合いという昔ながらのお話で楽しませてくれる。

映画全体の印象は、展開を考えながら描いている連載マンガをコミックスで一気に30巻ぐらいまとめて読んだような『スパイ大作戦』ならぬ『スパイいきあたりばったり』。別の言い方をすると、先を考えずに一話ごとに大金と人力を投入した連続活劇を、一気に見せられた感じだ。
しかしこの雑さ、おおらかさは悪くない。以前とある有名監督と話していたとき、「アメリカ映画には『ほっときゃ面白くなる』ってところがあって敵わない」と言われたことがあって、まさにその美質を分かりやすく発揮してる感じなのだ。
もちろんそれは手を抜いてるという意味ではなく、活劇の風土に身を任せる潔さであって、比べると-それなりに楽しめる作品ではあったが-ジェームズ・マンゴールド監督作『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』(23)の真面目なひとが宿題を順番に片付けてるような律儀さは、少々窮屈にも思えてくる。

そんな作り方で映画が進むにつれ、どんどんサイレント活劇に先祖返りしていくように見えるのも嬉しい。例えばベニスのシーン、狭い路地での1対2の格闘、小さな橋の上での剣戟は、どこか古めかしいアナログ感がかえって興趣をそそる。
そして呼び物となる派手なアクションは、トム・クルーズの肉体とともにエスカレートするにつれ、映画をスラプスティック・コメディ-ドタバタ喜劇-の世界に近づけていく。これは何も穿った見方ではなく、はっきりと笑いを狙った場面もある。空港でイーサンを探す男たちの背後の屋根の上を例の "トム走り" で横切っていくところや、パラシュートをつけたイーサンが絶妙のタイミングで列車に飛び込んでくるところなど、実におかしい。

スラプスティック・コメディと言えば今年は『ロイドの要心無用』(1923)の公開百周年になる。『プロジェクトA』(83)や『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(85)も時計の針にぶら下がる場面でオマージュを捧げたハロルド・ロイドの名作中の名作だ。そのクライマックスはビルのよじ登りで、次々と難関を突破しながら上へ上へと行くのだが。今回のミッション:インポッシブルでは、なんとこの『要心無用』を-これもまたスラプスティック・コメディでの重要な装置である-列車を使ってやってみせるのだ。どういうことかは観て頂くしかないのだが、これには手に汗握りながらも感動した。おみごと、スラプスティック・ヒーローの心意気である。

トム以外の役者及び各自のキャラクターもみんないい。メインのヒロインとなる女スリのヘイリー・アトウェルは美人ではあるがどこか洗練されない感じが、かえって地を這って生きてきたような逞しさを印象づける。こんな女に腕利きスパイのイーサンが「キャー、痴漢よ!」で逃げられちゃうから良いのだ。
イーサンを追うアメリカ諜報部の二人組もいい感じで、彼らが懸命に列車の乗客たちを救うために誘導するのは嬉しい展開。ポム・クレメンティエフがノリノリで演じる女殺し屋は最大の儲け役で、ほとんどのひとが大好きだろう。ただ、個人的には、今回は最後までワルのままでいてほしかった。寝返るのは、せめてPART TWOまで待っていて欲しかったな。

ものすごい名作というわけではない。ドラマ部分などアップでつないだ会話で「ハイ、説明おわり!」みたいなガサツさもある。だけどそんなこと許せちゃうぐらい、活動大写真の楽しさに満ちていた。