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『フーピー』(1930)

Facebook 内のグループに 2021/11/ 4 に投稿した記事に手を加えたものです。

コメディアンとして人気を誇ったエディ・カンターのミュージカル・ウエスタン『フーピー』が全篇、YouTubeに上がっていた。
原題は "Whoopee!" で映画内では "ウーピー" と聞こえるが、児玉数夫著「西部劇総覧」(東都書房)によると『フーピー』の邦題で1932年に日本公開されている。監督はフレッド・アステア&ジンジャー・ロジャースの名コンビを生んだ『空中レヴュー時代』(33)などのソーントン・フリーランド。

これが実に注目すべき点の多い作品で、まずこの年代にしてカラー作品。ごく初期の二色テクニカラーという方式らしく、プリントゴッコ(古い)の印刷のような人工的な色に味わいがある。
次に何といっても天才振付師で(振付けた舞踏シーンは自ら革新的な演出をしたという点で)映像作家でもあるバスビー・バークレーの映画デビュー作ということ。その群舞演出がどんなに凄いかご存知ない方は、"Busby Berkeley" で YouTube 検索して頂きたい。次から次へと出てくる現実離れした異常な映像に腰を抜かすこと、間違いなしだ。本作では既にその特徴である真俯瞰での万華鏡のような群舞、踊り子ひとりひとりのクローズアップなどが見られる。
そして、撮影スタッフの豪華さ。カメラマンが3人いるのだが、いずれもハリウッド映画史の重要人物だ。まずレイ・レナハンはカラー撮影のスペシャリストで、後に『風と共に去りぬ』(39)『モホークの太鼓』(39)『誰が為に鐘は鳴る』(43)などを手掛けた。リー・ガームスは『モロッコ』(30)『間諜X27』(31)といったジョセフ・フォン・スタンバーグ監督マレーネ・ディートリッヒ主演の名作を手掛け、『暗黒街の顔役』(32)などでも知られる名匠。そして最注目なのが、グレッグ・トーランド。言うまでもなく『嵐が丘』(39)『怒りの葡萄』(40)『教授と美女』(41)などで白黒の美を極めた巨人だが、バークレーとはこの後『突貫勘太』(31)『カンターの闘牛士』(32)でも組んでいるのだ。つまりバークレー独特の視覚効果は、トーランドとの協働で生み出されたものとも考えられる。その点を踏まえてオーソン・ウェルズが『市民ケーン』(41)にトーランドを起用したことを、蓮實重彦は著作「ハリウッド映画史講義」(筑摩書房)で、重視していた。このあたりは古典的ハリウッド映画における物語と視覚性という話とも絡んでくるので、興味を持たれた方は同書をお読みになればいいと思う。
あと一点、この映画は製作者サミュエル・ゴールドウィンの名を冠した「ゴールドウィン・ガールズ」が初登場したということもあるが、これはちょっと長くなるので、後に別記事としてアップしよう。

そんなわけで、あれやこれや興味深い点が多い映画だけど、考えずに観ていても冒頭の荒野を乗馬の大軍団が突っ切るカットからサーヴィス満点で、充分、楽しめる。カンターもふんだんに芸を見せ、コメディ演技も自動車強盗をしちゃうところなど、なかなかおかしい。