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滑稽で哀しい残酷劇-『傷だらけの挽歌』(1971)

Facebook 内に 2020/ 9/28 に投稿した記事に手を加えたものです。

ロバート・アルドリッチ傷だらけの挽歌』を数十年ぶりにDVDで再見。
ハドリー・チェイスの有名な犯罪小説「ミス・ブランディッシの蘭」の二度目の映画化(※注1)で、大金持ちの令嬢誘拐をきっかけに破滅へと暴走するギャング一家の運命を描く。令嬢が一味の中でも特に異常性格者の若者と結ばれてしまうのがキモで、血まみれの残酷劇と極限状況下の恋愛劇の要素を併せ持つ特異な傑作といえる。
全篇を貫く暴力性・残虐さは強烈そのものだが、今回見直して、それらが滑稽さをもって描かれている印象を強く受けた。ラスト近くの銃撃戦などは、スラプスティック・コメディのようにも思える(音楽もちょっとそんな調子だ)。ギャングママの無茶苦茶さはグルーチョ・マルクス的狂気と言えるかも。だからこそ、対照的なその後の納屋の屋根裏での哀しみを帯びた叙情に胸掴まれるのか。アルドリッチとは名コンビのカメラマン、ジョゼフ・バイロック(※注2)の腕が冴える名シーンだ。
また、アルドリッチの演出力は、当然のことながら暴力の爆発と同じぐらい、爆発しそうなサスペンスにも発揮されている。最初に令嬢を誘拐したチンピラが潜む小屋にギャング一家の兄弟たちが来るところは実に怖いし。何といってもその後、一家の家の二階に令嬢を隠すのが実に効いている。階段を誰かが登るたびに、或いは誰かがその途中で突っ立っているたびに、ただならぬ緊張が画面を覆う。
主人公のふたり(キム・ダービーと最近亡くなったスコット・ウィルソン(※注3))はもちろん素晴らしいが、自分はこの映画の二番手ヒロイン、コニー・スティーヴンスが好きなんだよな。歌手としても有名で、本作の中でも「Ain't Misbehavin'」「I Surrender Dear」と2曲のスタンダードを歌ってみせる。で、今回見直したことをキッカケに彼女のことを調べたら、2009年には映画監督業にも取り組んでいた。その作品 "Saving Grace B. Jones" の予告篇を観たらなかなか期待できそうだけど、老いたるスコット・ウィルソンが出てるのにジーン…としちゃった。

注1:最初の映画化『黒い骰子(サイ)』(48)は、YouTube に全篇あがっている。

注2:無声映画時代から働き始めた大ベテランで、ヴィム・ヴェンダース監督がアメリカで『ハメット』(82)を撮った際にも起用されている。

注3:1942年3月29日生-2018年10月6日没