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『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』(2021)

Facebook 内に 2022/ 1/29 に投稿した記事に手を加えたものです。

晴れた土曜だしオサレ映画を観てやろうと、ウェス・アンダーソンフレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』(21)へ。観終えたいまも、もちろんタイトルは覚えていない。『フレンチ・ディスパッチ(以下略)』で充分。
アメリカ生まれの名物編集長がフランスで発行し続けたという架空の雑誌の最終号を、そのまま映画化したという趣向。教養雑誌ぶってるのに、どこか東スポ的なセンセーショナルな嘘っぽさが混じるのがポイントだ。最初に雑誌と編集長の紹介および最終号になった経緯が語られ、自転車による市内紀行があったあと、3つの挿話が描かれる。天才囚人画家の話と、学生運動と記者の関わり、警察署長お抱えの名シェフの苦難。
いずれも工夫が凝らされて楽しいが、囚人画家のがいちばん気に入った。そういうひと、多いのでは。画家が執着する女看守をレア・セドゥが演じるのだが、これが素晴らしい。クレイグ版007の彼女より、遥かに良い。シェフ篇では、いま人気のシアーシャ・ローナンが思わぬところに出てくる。
アンダーソンのタッチは、箱庭風美術世界で人物が正面向いたカットを独特の間でつないだりするもので、イラストっぽくオシャレ。だが何故か嫌味にならず、(少なくとも自分は)楽しく観ることができる。これは『グランド・ブタペスト・ホテル』(13)も同様だった。良きマニアの人徳か。感想をネット検索したら「飛び出す絵本みたいな映画」と書いてるひとが何人かいたが、そういうアナログな人懐こさがあるのだ。シェフ篇では途中でアニメになったりするけど、驚くほど他の部分と印象が変わらない。手作り精神が貫かれているからだ。
舞台はフランスだが、どこか東欧の風変わりなカルト作品でも観てるような印象がある。というか、カレル・ゼマン好きでしょ。俺も好きだ。

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