鑑賞録やその他の記事

2024-01-01から1年間の記事一覧

映画する人、奧山順市

書き下ろしです。 奧山順市の『我が映画旋律』(1980)を最初に観た衝撃は忘れられない。 ハイコントラストな白黒の7分間のフィルムで、メインのイメージは、黒地に素早く伸び縮みする白い横縞。伸びて画面端を過ぎるたびに不思議な音を立てる。突如、耳を聾…

生きる場を繋ぐ『夜明けのすべて』(2024)

書き下ろしです。 三宅唱監督の新作『夜明けのすべて』(2024)を観る。 PMS(月経前症候群)を患い、月に一度自分がコントロールできなくなってしまう藤沢美紗(上白石萌音)は、仕事に大失敗して失職。病気に理解ある新たな就職先で、パニック障害を抱え…

『すべて、至るところにある』(2023)、或いは、「ない」?

書き下ろしです。 マレーシア出身で大阪を拠点に活動するリム・カーワイ監督の最新作『すべて、至るところにある』を、渋谷のイメージフォーラムで観た。 バルカン半島で出会った女性エヴァ(アデラ・ソー)と男性映画監督ジェイ(尚玄)。ふたりは意気投合…

芸術的珍品『あるじ』(1925)

書き下ろしです。 2022年末に好評だったカール・テオドア・ドライヤー監督特集が、再び開催されている。今回新たに加えられた3作のうち『あるじ』を観た。初見。1925年、ドライヤーが30代半ばのときに母国デンマークで撮ったもので、フランスなどで大ヒット…

力作『窓ぎわのトットちゃん』(2023)

書き下ろしです。 八鍬新之介監督作『窓ぎわのトットちゃん』(23)を観る。言わずとしれた黒柳徹子の大ベストセラーの映画化で、黒柳は製作にも名を連ね、ナレーションも務めている(※注)。 勉強不足なことに自分はこの原作、読んでないのだ。ただしそんな自…

見事な綺麗事『PERFECT DAYS』(2023)

書き下ろしです。 ヴィム・ヴェンダース監督が日本で撮影し、役所広司がカンヌで最優秀男優賞に輝いた『PERFECT DAYS』(2023)を観た。 役所演じるひとり暮しの男、平山が、朝起きて車で出発し、渋谷各地の公園のトイレを清掃してまわる繰り返しの日々と、そ…

芸能の真髄『キャビン・イン・ザ・スカイ』(1943)

書き下ろしです。 ヴィンセント・ミネリの公式な監督デビュー作(※注1)『キャビン・イン・ザ・スカイ』(1943)を観る。ブロードウェイのヒット・ミュージカルの映画化で、アメリカ南部を舞台に登場人物は全員黒人という趣向だ。 お人好しのリトル・ジョーは…