鑑賞録やその他の記事

古澤健『いずれあなたが知る話』『見たものの記録』(2023)

書き下ろしです。 古澤健監督の新作を2本、試写で。 まず『いずれあなたが知る話』(23)は、出演者でもある大山大と小原徳子が、前者はプロデューサー、後者は脚本を務めた作品。古澤監督は準備の最終段階で、乞われて監督を引き受けたという。大山演じるニ…

ジャック・ターナー『硝煙』(1956)

Facebook に 2021/12/3 に投稿した記事をもとにした書き下ろしです。 ジャック・ターナー監督の西部劇映画、先に投稿した『インディアン渓谷』(46)に続いて『硝煙』(56)を観る。 舞台は南北戦争突入直前の北部コロラド州デンヴァー。ロバート・スタック演じ…

ジャック・ターナー『インディアン渓谷』(1946)

Facebook に 2021/11/29 に投稿した記事をもとにした書き下ろしです。 過日投稿した『バーバラ・スタンウィック・ショー』(60~61)の1エピソードでの西部劇演出が見事だったジャック・ターナー監督の西部劇映画をDVDで2本、続けて観た。 『インディアン渓…

『バーバラ・スタンウィック・ショー』(1960~61)の西部劇

Facebook に 2021/11/10 に投稿した記事をもとにした書き下ろしです。 我が最愛の女優、ミッシーことバーバラ・スタンウィックは、往年のハリウッド女優としては珍しいぐらい息の長い活躍をしたひとだ。20代前半から主演作を重ね、30歳を過ぎてからも『大平…

四章構成の『HOKUSAI』(2020)

Facebook に 2021/6/14 に投稿した記事に手を加えたものです。 橋本一監督作品『HOKUSAI』(20)( ※注1)を観る。タイトル通り、世界的な絵画の巨匠、葛飾北斎の人生を描いた作品だ。 開巻まもなく浮世絵の大手版元/販売店の蔦屋への幕府の弾圧が描かれる。…

映画の魔『フェイブルマンス』(2022)

書き下ろしです。 スティーヴン・スピルバーグ監督最新作『フェイブルマンズ』(2023)を観る。これはかなり手強い傑作だ。あまりにも語りたいことが多すぎて収拾がつかず、このままでは書けなくなってしまうので、とにかく綴ってみよう。 これまで大人か子供…

オムニバス『偶然と想像』(2021)

Facebook に 2022/1/22 に投稿した記事に手を加えたものです。 濱口竜介監督作『偶然と想像』(21)。土曜午後の Bunkamura ル・シネマはびっしり満席。三話のオムニバスで場所も登場人物も限られているのに充分面白く、文化的な客層を満足させるのは、まあ、…

サム・ペキンパー『昼下がりの決斗』(1962)

Facebook に 2020/11/10 に投稿した記事に手を加えたものです。 サム・ペキンパー監督作品『昼下がりの決斗』(62)。とある金鉱から金を持ち帰る仕事にありついた元保安官(ジョエル・マクリー)と、その応援に雇われた曲者ガンマン(ランドルフ・スコット)…

『リチャード・ジュエル』(2019)

2020/1/24 の Facebook 投稿に手を加えたものです。 『リチャード・ジュエル』(19)を観てきた。クリント・イーストウッド監督作で、イベント会場に仕掛けられた爆弾を発見して多くのひとを救ったはずの青年が、逆に犯人の疑いをかけられる話。でぶっちょ主人…

あの2人にまた会える『ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー』(2023)

ほぼ描き下ろしです。 『ベイビーわるきゅーれ』第一作(21)はめちゃくちゃ気に入って、見た当日の Facebook には次のように投稿した。 阪元裕吾監督作『ベイビーわるきゅーれ』、可愛い女の子殺し屋ふたり(髙石あかり、伊澤彩織)にかかれば、アパートの巣…

荒野の狂気『デッドロック』(1970)

Facebook の 2021/6/8 の投稿に手を加えたものです。 K's cinema でローランド・クリック監督作『デッドロック』(70)。1970年のカンヌ映画祭に招待されたニュー・ジャーマン・シネマの異色作。戦争の危険迫る中東の砂漠をアメリカの荒野に見立てて撮影し、照…

ほたる企画作『短篇集 さりゆくもの』(2020)

Facebook の 2022/2/9 の投稿に手を加えたものです。 ケイズシネマで、女優のほたるさん企画・プロデュースの『短篇集 さりゆくもの』(2020)。 一本目、ほたる監督作品『いつか忘れさられる』。井川耕一郎監督作『色道四十八手 たからぶね』(14)の残フィルム…

ほたる監督作『キスして。』(2013)

Facebook の 2013/12/13 の投稿に手を加えたものです。 自分の脚本作では気に入ってる2本の映画、『ぬるぬる燗燗』(1996)『倉沢まりや 本番羞恥心』(95)に出演された葉月螢(現・ほたる)さんの主演・監督作『キスして。』(2013)が公開中というので、観に行…

マイナー枠の力作『新聞記者』(2019)

Facebook の 2020/3/8 の投稿に手を加えたものです。 メジャーが中心の日本アカデミー賞だが、大昔の五社体制も崩れて久しい日本映画界であるからには、毎年の作品賞にはマイナーでも費用対効果で抜群のヒットをした話題作が一本ぐらいは選ばれる。その意味…

ルノワール版『小間使の日記』(1946)

Facebook の 2021/8/21 の投稿に手を加えたものです。 『小間使の日記』(46)をDVDで。オクターヴ・ミルボーの古典小説の映画化で、ルイス・ブニュエル監督のは観たが、このジャン・ルノワール版は初めて。 ブニュエル版でジャンヌ・モローが演じた主人公は…

ウルマーの黒人映画『ハーレムにかかる月』(1939)

Facebook の 2019/5/11 の投稿に手を加えたものです。 「エドガー・G・ウルマー DVD-BOX」収録の一本、『ハーレムにかかる月』(39)を鑑賞。ハーレムを舞台にした無名の黒人役者たちによるいわゆる "レイス・フィルム"(※注)。資産ある未亡人を篭絡したギャ…

快作『いとみち』(2021)

Facebook の 2021/7/13 の投稿に手を加えたものです。 横浜聡子監督作『いとみち』(21)を観る。不器用な少女がメイド喫茶でのバイトを通じて周囲に心を開き、かつて得意だった津軽三味線にも再び向き合っていく…という話だ。 登場人物に愛情を込めて描いてい…

苦すぎる西部劇『コルドラへの道』(1959)

Facebook の 2013/9/2 の投稿に手を加えたものです。 DVDでロバート・ロッセン監督の珍しい西部劇『コルドラへの道』(59)を鑑賞。いやぁ…物凄い映画だった。 1916年の米軍のパンチョ・ビリャ討伐遠征を背景に、ゲーリー・クーパー扮する少佐が戦場での活…

政治ノワール『オール・ザ・キングスメン』(1949)

Facebook の 2013/9/8 の投稿に手を加えたものです。 最近個人的に開催している "真夜中のロバート・ロッセン祭り" 、今日は『オール・ザ・キングスメン』(1949)。廉価版DVDで持っているのだが、観るのは実はこれが二回目なのだ。 ロッセンとしては前回取…

至高の傑作『ボディ・アンド・ソウル』(1947)

Facebook の 2013/9/3 の投稿に手を加えたものです。 DVD(※注1)でロバート・ロッセン監督作品『ボディ・アンド・ソウル』('47)。久しぶりに見直した。我が生涯のベスト作品の一本である。 タイトルは有名なスタンダード・ソングから。歌ならビリー・ホ…

バーホーベンの芸能魂『ベネデッタ』(2021)

書き下ろしです。 世界で最も身も蓋もない大監督、ポール・バーホーベンの新作『ベネデッタ』を、ヒューマントラストシネマ渋谷で観る。 17世紀イタリアの修道院を舞台に、幼い日には聖母マリアに、成長してキリストに近づいた(と、本人も周囲も思い込むよ…

映画『アルフィー』(1966)とバカラックの歌

書き下ろしです。 2023年2月8日、作曲家/映画音楽家のバート・バカラックが94歳で亡くなった。老衰による自然死だという。あまりにも多くの名曲を遺した天才だが、今日は本人の一番のお気に入りだった『アルフィー』について書く。 この歌、多くのひとは196…

オリジナルの心意気『キャラクター』(2021)

2021/6/28 の Facebook 投稿に手を加えたものです。 イオンシネマ板橋で『キャラクター』(21)を観る。永井聡監督は『帝一の國』(17)は楽しめたし、何より『恋は雨上がりのように』(18)は傑作だったので、名優にして大スターの菅田将暉と再度組んだとなると観…

『多十郎殉愛記』(2019)の贅沢さ

2019/5/22 の Facebook 投稿に手を加えたものです。 『多十郎殉愛記』(19)は、いま現在、観たことそのものが事件になるような映画だった。全ての瞬間に「この映画を作りたい」というスタッフ・キャストのはち切れるような想いが充満し、老将、中島貞夫監督の…

『ダーティハリー』(1971)編集のひみつ

書き下ろしです。 大風呂敷なタイトルにしちゃったけど、今回は『ダーティハリー』(71)-このドン・シーゲル監督クリント・イーストウッド主演の大傑作のごく一部分について書く。といっても、この映画を観たひとみんなが語りたくなる鉄橋(※注1)からのバ…

道化師の純情『カビリアの夜』(1957)

Facebook の2020/8/8 の投稿に手を加えたものです。 恵比寿ガーデンシネマのフェリーニ映画祭で『カビリアの夜』(57)。この監督初期のネオレアリズモ系列の中では最も有名な中の一本で自分も大好きだが、スクリーンで観るのは初めて。貧しくて酷い目に会いが…

オフュルス最後のアメリカ映画『無謀な瞬間』(1949)

Facebook の2022/6/22 の投稿に手を加えたものです。 『無謀な瞬間』(49)をDVDで。マックス・オフュルス監督の最後のアメリカ映画で、ジョーン・ベネットとジェームズ・メイスンという凄い組合せ。プロデュースは当時のベネットの夫ウォルター・ウェンジャー…

ドン・シーゲルの腕が冴える『殺人捜査線』(1958)

書き下ろしです。 菊川のミニシアター、Stranger のドン・シーゲル監督特集で『殺人捜査線』(58)を観る。 冒頭の港でのタクシー暴走の激しいアクションから、警察の捜査で、海外から帰国した一般人の荷物に麻薬入りの土産品を潜ませて回収する(つまり、一般…

雑草の良さ『リコリス・ピザ』(2021)

Facebook の 2022/7/11 の投稿に手を加えたものです。 ポール・トーマス・アンダーソン監督の新作『リコリス・ピザ』(21)。舞台は70年代のアメリカ西海岸。チョイ役の俳優ながら事業に手を出す15歳の少年実業家と、女子大生っぽさを残しながら自分の進む道に…

フリッツ・ラングの人情喜劇『真人間』(1938)

Facebook の 2021/6/26 の投稿に手を加えたものです。 『真人間』(38)をDVDで。フリッツ・ラング監督の渡米後三作目で、珍しくフランク・キャプラ的ともいえる題材の人情喜劇。篤志家の社長(ハリー・ケリー!)が元犯罪者たちを店員に雇ったデパートで…