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オリジナルの心意気『キャラクター』(2021)

2021/6/28 の Facebook 投稿に手を加えたものです。

イオンシネマ板橋で『キャラクター』(21)を観る。
永井聡監督は『帝一の國』(17)は楽しめたし、何より『恋は雨上がりのように』(18)は傑作だったので、名優にして大スターの菅田将暉と再度組んだとなると観逃すテはない。結果、期待通り手応え充分のしっかりしたサスペンス映画で、菅田以外の役者陣も各々の見せ場をこなし、役者デビューのセカオワ Fukase の熱演を盛り上げる。

物語は、菅田演じる実力不足の漫画家が、異常者 Fukase の犯した殺人現場を目撃したことから、Fukase のキャラクターが反映された漫画で作家として覚醒し、FukaseFukase で漫画を意識した新たな殺人に手を染め、菅田に共犯≒共作関係を迫る…という捻りの効いたサイコ・サスペンス。これに中村獅童小栗旬の刑事コンビ(この小栗が素晴らしい)、菅田の恋人から妻となる高畑充希、もうひとりの異常者、松田洋治などが絡む。
永井監督の語り口は今回-単に好みの問題かも知れないが-カメラが動き過ぎかな…とは感じたものの、ちょっとしたシーンに段取りを段取り臭くなく見せる巧みさを見せ、自然に物語に引き込まれる快感を味わわせてくれる。例えば、菅田が殺人現場たる家の中まで入っていくのは現実的に考えると少し無理があるのだが、演出力でカバーしてくれる。門扉と玄関の距離感の見せ方、隣の住人がクレームを入れるカットの的確さ。さらに、家の中で目撃してから Fukase と菅田のアップに踏み込む呼吸がいい。
殺人現場が漫画に反映されていく見せ方も、小説や演劇にはできない映画ならではの視覚的な面白さがあるし。仕上がった原稿用紙が室内に洗濯物のように吊るされていくのには、職業モノ的な味わいもある。細かいところでは、葬式のシーンで雨が降るのはやはり良いし、その場の砂利や樹木の匂いが伝わるのは気分的に盛り上がる。『恋は雨上がりのように』でも感じたのだが、この監督は雨の雰囲気がうまく出せるひとだと思う。これは体質的な長所だ。しかもその雰囲気をうまく物語の方へ取り込む力があるのは、たいしたものだ。
ただ、映画全体の難点としては第一に、やや長過ぎる。ロバート・シオドマクフリッツ・ラングの時代とはスタイルの変わった現代ということを考えてもなお、この題材にはもっと省略を生かした締まった語り口が必要だったのではないか。あと、細かい話だがガード下の飲み屋のシーンではエキストラが悪目立ちし過ぎた(当然、エキストラのせいではない)。それから、最後に菅田が犯人との対決に向かうとき、そのことを警察がはっきりと、(菅田も理解の上で)知ってるというのは、何とかならなかったのか。そうなると、警察が駆けつけるタイミングは、作り手のさじ加減ひとつにしか思えなくなる。ここはもっと上手いやり方がなかったか。
とはいえ、菅田と Fukase の対決は、「対決するんならここまで行かないと!」という「ヤリスギ感」を見せている。これは嬉しい。なんというか、映画としてギリギリのところまで見せる責任感(?)を、感じるからだ。「やるだけやったな、よし、じゃ、OK!」ということで、こっちも評価しちゃうよねえ。
そしてもちろん、本作がオリジナル企画ということは、大いに評価したいし、応援したい。オリジナルで、しかもサスペンスものを成立させる。こういうことが増えると、劇場に行く楽しみも増すというものだ。