鑑賞録やその他の記事

『恋は雨上がりのように』(2018)

Facebook に 2018/ 7/ 1 に投稿した記事に手を加えたものです。

ネットの評判でふだんあまり観ないタイプの日本映画に行って良かったことは正直、あんまりないのだが。永井聡監督作品『恋は雨上がりのように』、これは相当の手応えだった。作り手が小松菜奈という類まれなスターに賭けているのが成功していて、しかも立派な大人のエンタテインメントになっているのだ。
ヒロインの恋情にせよ、スポーツに挫折したことにせよ、まず絵で見せて「こういうことかな」と思わせてから、後追いで説明を進める。その呼吸が気持ちよく、だから観客は自然と彼女を見つめ、恋に狂う様子に興味を持つことができる。
特に店長に告白した直後に車で送ってもらうシーンは良く(検索したら原作漫画にもあるらしい)、小松と大泉という過剰な顔を持つ役者の二人芝居が見事な見せ場になっている。「僕って言った」は傑作だ。いや、こういう状況でこんな美少女にスキスキ圧力をかけられたら大変だわ。
女の子が走ることや雨、海…といったいかにも映画らしい設定はハズさず魅力にしてるし、役者も皆、良い。主演二人の素晴らしさはもちろん、脇役も他の映画ではこれだけ良く見えないかも-というぐらいに持ち味を生かされていて、好アンサンブルが成り立っている。
例えばヒロインの親友が大泉に靴屋で会うところは必要最小限の会話でとてもいいシーンになっているのだが、こうしたところを「ほら、いいでしょ」と撮らない節度が気持ち良い。言うならば、サム・ライミが普通の日常描写で見せる気持ち良さに近い。
本来は太陽の子であるはずのヒロインがドラマの大半で雨に濡れた水の女として登場するのだが、そこから抜け出すのに水と光の境目である海岸が重要な役割を果たす。ラスト近くの海岸シーンは実はかなり難しいことをやってるのだが、節度で切り抜けている。やはりこれは大人の娯楽映画なのだ。