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『リチャード・ジュエル』(2019)

2020/1/24 の Facebook 投稿に手を加えたものです。

リチャード・ジュエル』(19)を観てきた。クリント・イーストウッド監督作で、イベント会場に仕掛けられた爆弾を発見して多くのひとを救ったはずの青年が、逆に犯人の疑いをかけられる話。
でぶっちょ主人公のちょっと困った正義漢な感じが絶妙で、イーストウッドの実話の人物を扱い続けてきた経験値の高さを感じる。この実際にいたらあまり付き合いたくないようなヤツにいつの間にか感情移入し、クライマックスで「おお、成長したな」と胸を打たせる展開が見事だ。
母子家庭の母モノとしてもうまくできていて、母の記者会見のシーンは作り手の狙い通り感動してしまうのだが、それより前の彼女がテレビのボリュームを上げるのをキッカケとしたいさかいのシーンに演出芸を見る。母役のキャシー・ベイツが絶賛されているのにも納得。
全体に渋めの役者の芝居を堪能させる映画になっていて、主人公のふたり、ジュエル役のポール・ウォルター・ハウザー、弁護士役のサム・ロックウェルはもちろん良いが、弁護士の秘書で恋人のニナ・アリアンダが適材適所で、アメリカ映画的な頼れる女性の味がうれしい。
イーストウッド映画として観れば、『トゥルー・クライム』(1999)『ハドソン川の奇跡』(2016)に通じる冤罪モノであり、メディアを含む権力と個人の戦いの物語であるところにこの作家らしさを見出だせよう。
また、主人公がテレビ画面に晒されたりして、「どう見られるか」がキモとなる点に、世に姿を晒し続けてきたスター=監督らしい映画という見方もあるかも。イーストウッドにとって「見られること」は常に重要なのだ。
物語のキッカケとなる爆弾騒ぎのシーンは、さすがと唸る見事な演出。社会派とサスペンスの相性の良さ。