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ジャック・ターナー『インディアン渓谷』(1946)

Facebook に 2021/11/29 に投稿した記事をもとにした書き下ろしです。

過日投稿した『バーバラ・スタンウィック・ショー』(60~61)の1エピソードでの西部劇演出が見事だったジャック・ターナー監督の西部劇映画をDVDで2本、続けて観た。

インディアン渓谷』は1946年の作品で、ターナー初の西部劇。『駅馬車』(39)のアーネスト・ヘイコックス原作で、タイトル通りインディアンの縄張りに食い込んで住む村の緊張感がトーンになっている。

主役はダナ・アンドリュース。ヒロインのスーザン・ヘイワードとは仲の良い友人だが、彼女はアンドリュースの親友であるブライアン・ドンレヴィの恋人。アンドリュースには別に、いいなずけと言ってよいパトリシア・ロックがいる。
そのままだと各々うまく収まるのだが、アンドリュースとヘイワードは惹かれ合っていき、ドンレヴィも気づいてる感じ。ややこしくも、ありそうな話として描かれている。中でもドンレヴィの見た目の偉丈夫に反した人間的弱さが印象的で、ターナーも繊細な演出で描写。
またこの4人とは別に、ホーギー・カーマイケルがシェークスピア劇の道化のような、超然とした役を演じているのも面白い。

さて当然ラスト近くではインディアンの襲撃となるわけだが、主要人物側の白人連中は満足に迎え撃てずに散々にやられちゃう。襲撃の原因も村の男の蛮行なので、あまりインディアンを恨む話にもならないけど、ここまで一方的にやられて壊滅しちゃうのも珍しいのではないだろうか。子供が乗った幌馬車に火が回るところなど、衝撃的。
その後はカーマイケルが歌など歌って、一応、新たな希望への旅立ち…となるのだが、何とも言えないやりきれなさは残る。ターナー監督としては、祖国フランスの戦争被害に思いを馳せたのだろうか。

その一方で、初めての西部劇とあって風景描写に力を入れてるのは、凄く伝わってくる。素晴らしい色彩美で、同時代的に映画館のスクリーンで体験した方が羨ましい。
また、森に囲まれた山間の村の感じも、非常に伝わる。西部劇の地域共同体は、荒野に作られた大通りのある町だけではないのだな-と、今さらのように思う。要所要所でクレーンを使って俯瞰気味に撮るのが、みごとな効果をあげている。

痛快活劇としての西部劇にはほど遠い作品だが、何ともいえない苦い後味はなかなか消えそうにない。一貫して演出にある種の品格があるのも、さすがはジャック・ターナーと唸らされた。
というわけで、続けて10年後のターナー西部劇『硝煙』(56)を観たが、こちらはさらに見応えのある傑作だった…。