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役者対決の妙味『西部の男』(1940)

Facebook の 2021/7/28 の投稿に手を加えたものです。

ウィリアム・ワイラー西部の男』(40)を録画で。ウォルター・ブレナンが首吊り判事ロイ・ビーン(※注)を演じているので気になってたのだが、実は初見。

で、このブレナンが実に良いのだ。我儘で愛嬌があって食わせ者で悪党で…作り手もゲイリー・クーパー演じる主人公よりも、明らかにビーンに気持ちが入っちゃってる。アカデミー助演男優賞を受賞したのも、納得だ。
とはいえ、クーパーもいいんですよ。紛争地にふらりと現れた「流れ者の賢者」という、西部劇を弾ませる主人公パターンを、ユーモアを交えて演じてみせる。後に黒澤明監督が三船敏郎に演じさせたような役の源流ですな。同じクーパー主演の西部劇でも『ヴェラクルス』(54)ほどには、悪役に食われちゃいない。
だから-最後もブレナンが「持っていく」とはいえ-二人の絡みを、「さあ、どっちも!どっちも!」と楽しむことはできる。役者対決を楽しむ作品ですな。

ワイラーの演出は相変わらず「仕事きっちり」という感じで安心できるし、見せ方も常に物語と役者を際立たせることを第一とした熟練の技だ。
しかしながら本作では、クーパーとフォレスト・タッカーの殴り合いで、物語的な意味を超えて視覚効果が目を奪うような演出があって驚いた。ここは撮影監督のグレッグ・トーランドの提案かも知れない。それとも、そんな意外性も計算ずくで仕込んでいたワイラーの計略かも。だったら、まんまと乗せられたわけだ。

注:19世紀末のテキサス西部に酒場を兼ねた法廷を開いていた実在の判事。法律の知識も生かじりで我流で裁判を進めたため、後年、やたら絞首刑を宣告する "首吊り判事" のイメージが作られたりしたが、実際に宣告したのは2人(うち1人は逃走)だけだったという。ジョン・ヒューストン監督による傑作『ロイ・ビーン』(72)では、ポール・ニューマンが演じた。また脇役ではあるが、バッド・ベティカー監督の最後の西部劇 "A Time For Dying"(69)でのビクター・ジョリーの怪演も印象的だ。