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『バーバラ・スタンウィック・ショー』(1960~61)の西部劇

Facebook に 2021/11/10 に投稿した記事をもとにした書き下ろしです。

我が最愛の女優、ミッシーことバーバラ・スタンウィックは、往年のハリウッド女優としては珍しいぐらい息の長い活躍をしたひとだ。
20代前半から主演作を重ね、30歳を過ぎてからも『大平原』(39)『レディ・イヴ』(41)『群衆』(41)『教授と美女』(41)と、名作名演を連発。1944年には37歳にして『深夜の告白』の悪女役で新境地を開拓。その後は何でもこなせる名優として、50歳ぐらいまで映画界で活躍した。1960年代に入ると軸足をテレビに移し始め、ここでも主役ないしはレギュラー級で70代後半まで女優生活を続けた。驚くのはそれなりに年齢を重ねてることを隠さず、なおかつその歳なりの美しさを見せたことである。

そんなミッシーのテレビドラマとして、日本では『バークレー牧場』(65~69)が知られているが、映画ファン、ミッシー・ファンとして見逃せないのは、何と言っても60~61年に放映されたその名も『バーバラ・スタンウィック・ショー』(The Barbara Stanwyck Show)だ。これはタイトル通りミッシーをメインにした30分のドラマ・シリーズで、毎回一話完結の短編を彼女のホスト(最初と最後の解説)と主演で楽しんでもらおうというもの。内容に特に傾向は決められていないが、観た限りではキレの良い上々の作品が並んでいる。それもそのはず、最多数(11話)を手がけたメイン監督はジャック・ターナー(『キャット・ピープル』(42)『私はゾンビと歩いた!』(43)『過去を逃れて』(47)『硝煙』(56))なのだ。他にもロバート・フローリー、スチュアート・ローゼンバーグといった映画ファンには気になる名前が並んでいる。

さて、このシリーズのターナー作品というと、まず注目を惹きやすいのは『選択』(The Choice)だろう。後の『シャイニング』(80)の原型といわれる、「追い詰められて閉じこもった部屋のドアを斧で破られる」イメージがあるからだ。作品としてもたいへん良くできていて、特に監督を志すひとには限定された舞台でのサスペンス演出の教材ともなり得るものだと思う。
しかし今回は、『アイアンバークの花嫁』(Ironbark's Bride)について語っておこう。『大平原』のほか『愛の弾丸』(35)『四十挺の拳銃』(57)の西部劇女優としてのスタンウィックの系譜に連なるものだからだ(もちろん、後の『バークレー牧場』も)。

一人暮らしの老農夫のもとに子連れで嫁入りに来た中年女性。男の子が新しい父に何かと反抗的で困っているうちに、死んだと思った前の夫が現れるのだが、こいつが札付きの悪党だった…。
冒頭の駅馬車での到着、男の子が馬に乗ろうと奮闘するところなどにも、西部劇の味があるが、なんといっても秒で決まるクライマックスが鮮やか。西部の街らしい "道" の構造を生かして、そこまでの人物関係のもつれた糸が一瞬で解ける凄い語り芸を見せてくれるのは、さすがターナー。ちょっとした室内シーンの演出も、各人物の気持ちが見えるようで巧い。しかも農夫役はチャールズ・ビックフォードという豪華さ。

シリーズの西部劇には、他に『三人の狙撃者』(54)のルイス・アレンが監督した『男のゲーム』(A Man's Game)もあって、なかなかユーモラスで快活な出来栄え。
いずれにせよ注目すべき短編映画(と、あえて言おう)揃いなので、日本版ディスクの発売を願う。せめて、ジャック・ターナー作品だけでも!