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大人の青春活劇『17歳は止まらない』(2023)

書き下ろしです。

北村美幸監督作品『17歳は止まらない』(23)を観る。

農業高校で畜産を学ぶ瑠璃は、年上好み。同年代の男の子に対するツンと好きな先生へのデレの落差が異常で、特にデレ時のウザさが凄まじく、その歯止めの効かなさは正にタイトル通りだ。やがて恋情が爆発してその末に…というお話。

冒頭、孵化したヒヨコたちの小屋にツナギを着た女子高生4人組が「うわあ!」と突入するのをローアングルで捉えたショットのイキの良さから、目を開かせられる。
続く彼女らの芝居は自然なのだが、自然っぽさをこれみよがしに強調するような演出ではなく、役者たちの若さがそのままイキイキと反映されてる感じで気持ち良い。それぞれの個性を感じさせた上で、主人公の瑠璃にすんなりと焦点が絞られていくのも、巧みだ。

瑠璃の先生への猛攻も「さあ、次はどうなる?」というサスペンスでグイグイと引っ張ってくれる。恋に燃えてほぼ珍獣化してるキャラクターの描写が演出・芝居ともに良いのだが、そもそもの脚本での展開がいい。
飲み慣れない酒の勢いで宿直中の先生に会いに行くというのは、主人公の芝居にだけ頼ればあざとさ過剰になりかねない、危ういシチュエーションなのだが。友だちふたりを絡ませ、なおかついいタイミングで離脱させることで上手に持って行ってる。もちろんそれは、シーンの狙い以上のものを体現化してくれた少女たちの力でもある。
かと思えば、学校の階段で「相談があるんです」と呼び止めるところは、関係ない生徒たちが次々と通り過ぎることで、ふたりの間の緊張感が強調される。そして先生の家を訪れてからの展開は、本作の大きな見せ場だ。アパートの窓、扉、自動車等々の装置がみごとに機能して段取りが踏まれ、「行くとこまで行く」にはここまでしなきゃダメだという周到な展開を見せる。これがあって瑠璃の異常な諦めなさが際立ってくる。

一方で農業高校の畜産科という設定は、まず観客を引き付ける興味深い珍しい舞台として機能する。その上で、育てた鶏を自分で食肉にするということ、子牛の誕生の目撃などがしっかりと撮られていて、"命" のさまざまな場に向き合うことが生命力あふれる時期の彼女らにふさわしいのだな-と納得させられる。
体験のひとつひとつを、映像として目で見ることで納得させられるのだ。

そしてこの畜産科での学びは、瑠璃の恋愛の顛末と離れてはいない。どちらも、「望んでも、どうしようもないことはある」という、青春の直面する非情さにおいて共通する。
その非情さを描く上で、作家は主人公に共感を寄せながらもしっかりと距離を取り、ある局面においては意地悪でさえある。
そこがいいのだ。いくつかの青春映画が青春に寄りそうあまり甘っちょろく、場面によっては恥ずかしくて見てられないものになるのに対し、本作はちゃんと大人の視点で、大人の鑑賞に耐える青春活劇に仕上げてある。

役者はみんないい。瑠璃を演じる池田朱那は、本作で何らかの賞を与えられるべきだろうと思う。
魅力的なロング・ショットがあるのも良かった。