書き下ろしです。
来年公開予定の『輝け星くず』を、扇町キネマでの特別先行上映で鑑賞。
監督の西尾孔志(ひろし)氏は大阪在住で、本ブログでも取り上げた大傑作『ソウル・フラワー・トレイン』(2013)をはじめとする数々の注目作をものにしてきたひと。拙作『LOCO DD 日本全国どこでもアイドル』(17)の十三シアターセブンでの公開に、大いに協力してくれた好人物でもある。
大阪で暮らす青年、光太郎(森優作)には密かにプロポーズを考えている恋人、かや乃(山﨑果倫)がいるのだが、彼女が突然、薬物所持の罪で捕まってしまう。光太郎はかや乃の父、慎介(岩谷健司)とともに、四国の警察署に保釈金を届けに行くことになるのだが、この父が自称パニック障害で、電車にも、普通サイズの乗用車にも乗れないという。思わぬ難物を抱えながらも、光太郎は目的地へ近づいていくのだが…。
まず主役の三人が素晴らしい。
川崎ゆきおの漫画に出てくる "まきこまれ型" 男のようなルックスで、お人好しに厄介事を背負っても自然に見えてしまう森。胡散臭く信頼し難いが、どこか漂うひと懐こい動物っぽさに観てるこっちも心許しそうになる岩谷。しゃんとした大人っぽさと弱さのバランスが絶妙で、父とは逆にひとに甘えきれない寂しさを見せる山﨑。
世間的にはいわゆる "スター俳優" ではないにもかかわらず、観客を惹きつける魅力ある(というか、西尾監督が魅力を引き出した)この3人あってこそ、「かや乃はなぜ薬物に手を出したのか」「慎介の自称『パニック障害』はなにゆえなのか」という謎に自然に引っ張られて、物語(=登場人物たちの旅)に付き合う気持ちにさせられる。
映画の前半は、光太郎と慎介のロードムービーとして進むのだが。雰囲気に流されず、丁寧に画面を積み重ねる中で、この映画ならではの "ロードムービーの空気感" を醸しているのが、嬉しい。プロとして映画をきちんと作る心意気だ。
例えば、ロードムービーであれば欲しくなる野外のロングショットには、「ここぞ」という場で踏み込んでくれるし。乗り物の選び方・見せ方も、工夫が凝らされている。あるいは-移動してるシーンのみでなく-二段ベッドの上下での会話にも、単なる顔と顔の切り返しなのに、何ともいえぬ宿泊所の雰囲気がある。こういうのが映画の "質" を決定する。
中盤以降、旅(=ロードムービー)の目的の保釈金支払いも終わり、"父娘のトラウマ克服物語" になる頃には、すっかり映画のタッチに乗せられて、感情移入しながら観ることになるのだが。この映画、最後まで「ほら、『愛すべき』奴らでしょ」という甘さに堕ちない。このような "大人" の人情喜劇は、本当に貴重だ。
クライマックスも、娯楽映画らしくきちんとミスリードを用意した上で、作り手が「こうあるべきじゃないか?」と考えた結果に向かう。そして3人を、それぞれなりに-若くはない慎介でさえ-成長させてみせるのだ。
観終えた後の感覚は何とも言えない爽やかなもので、それは-言うならば-この映画の "人間讃歌" を受け取ったからだが。その歌を歌うためには、作り手に「自分は人間讃歌なんて歌えるほど偉くはないんだけど」という謙虚さがあるのが大切で。それでも何とか「歌いたい!」という気持ちの果ての悪戦苦闘が生んだ傑作の数々を我々に見せてくれたのが-例えば-森﨑東という監督だった。
『ソウル・フラワー・トレイン』はそんな "森﨑後" を印したみごとな映画だったが、本作はさらに、作家としての成熟を感じさせる新たな一歩に踏み込んでいる。こんな映画につきあってこそ、現代映画につきあってると言えるのではないか。つまり、必見である。