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『ソウル・フラワー・トレイン』(2013)

Facebook に 2013/ 9/28 に投稿した記事に手を加えたものです。

西尾孔志監督作品『ソウル・フラワー・トレイン』(2013)。公開時、高橋洋森崎東監督の名を出して紹介していたので、「これは俺が観ねば」と新宿 K's Cinema の上映最終日に駆けつけた。

冒頭、平田満扮する主人公の後ろ頭が望遠で捉えられ、幼女の古写真がカットインするあたりは「ん? ちょっと肩に力が入ってるのかな?」とか思ったりしたんだけど。直後に軽トラを走らせて村の若くもない娘三人(すぐに少年ナイフだと分かる)を拾い、運転席の主人公と荷台に載せた彼女らがマイクで軽口をたたき合うところから、バラバラに撮っても見事に運動と情とが繋がり合ってしまう映画マジックが発動して、思わず身を乗り出す。
そこからはもう、「いい!」「いい!」の連続ですよ。
それをいちいち具体的に挙げると夜が明けてしまうので一箇所、声が出そうになるぐらい良かったところを書くと、晩ごはんを食べに行く主人公と娘とその友人がアーケード街を自転車で走るカットの入り方! ここはお見事でした。

話自体は、ちっぽけな人々の短くも運命的な二日間を描いたものだけど。
人物の息づかいに肉薄するようなカメラと、そして何より、小手先よりも人の存在と場所の力に賭ける演出の覚悟とで、堂々たる「大きい」映画になっている。これやで。これが観たかったねん!
結果、登場人物は二人のヒロインはもちろん、平田満演じる主人公の爺さんさえ、人として、とても「かわいい」存在になっている。というか、本当に人を「かわいく」撮るというのは、これぐらいやらなくちゃダメなのだ。
人が「かわいい」ということは、これぐらい凄いことだという点で、確かにこの映画は森崎映画の域に達している(これ、最上級のホメ言葉)。

そんな中で、一歩間違えば小手先に見えるような「工夫」さえもが、「切実な遊び」としての輝きを放ち出す。未見の人のために詳しくは書かないけど、クライマックスで主人公がうろたえながら画面を(ちょっと『サイコ』(60)の刑事が階段を落ちるカットの逆みたいな感じで)滑っていくところなど、我が目も彼と共に画面を滑り、運命の舞台へと引き寄せられてしまうのだ。そして、まんまと泣かされる。
(ちなみにその少し前には、とても美しい「人が走る」カットがある!)

とにかく、むちゃくちゃ気に入りました。邦洋合わせても、この年のベストのひとつです!

なお、2022年9月13日現在、Amazon Prime Video のプライム会員特典で観ることも可能です。

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ソウル・フラワー・トレイン