鑑賞録やその他の記事

フランク・タシュリン讃

Facebook に 2020/ 9/23 に投稿した記事に手を加えたものです。

最近、フランク・タシュリン監督の映画をDVDで立て続けに3本も観てしまいました。アニメーションから出発し、ジェリー・ルイスの底抜けシリーズなどで実写にも腕をふるったひと。

きっかけは『女はそれを我慢できない』(56)。タシュリンがどうこう言うよりエディ・コクランジーン・ビンセントなどのロックンローラーが歌声を披露することで有名な映画。ジュリー・ロンドン様も出てるし、ヒロインはジェーン・マンスフィールドということで観たのですよ。正直、映画としてはそれほど期待してなかった。エルビス・プレスリーのリゾートものぐらいの面白さがあればラッキーかな、という感じでした。
んで観てみると、もちろん期待した音楽的な部分でも満足はできたのですが、ドラマ演出が意外やすごい。ベテランの芸能マネージャーたる主人公とジェーンの微妙な関係の描き方の面白さ、ジェーンを囲ってる親分のアクの出し方の巧さ。ミュージシャンの演奏シーンを適時出していくというミッションをクリアしつつ、テンポ感を見失わない。結果、ジェーンが堂々と歌い出すシーンなんぞ、感動しちゃいましたよ。
こりゃすごい! と、監督名のフランク・タシュリンをネットで調べたら、ゴダールなんかも評価していて、映画にうるさい方々には押さえるべき監督だった様子。ああ、俺、勉強不足。

つっても勉強するためにじゃなく、あんまりそのタッチが気に入ったので、さっそく今度は晩年作の『おしゃれスパイ危機連発』(67)ってのを観ました。タイトルが面白そうですもん。ドリス・デイリチャード・ハリスの共演で、ドリスは役柄を考えるとややお歳を召してるが、これが『女はそれを我慢できない』以上のめっちゃ面白い映画。
産業スパイのドリスが髪の薬の秘密を得るために、女性モデルの髪の毛をこっそり切る奮闘ぶりが、まずおかしい。モデルが映画館に行くと、後ろの席に座って切ろうとする。するとモデルが隣の席の男といちゃいちゃキスをし始め、男の髪を切ってしまったりする。で、なぜか男がドリスに気づいて、こいつが浮気症の変人だからキスしながらドリスの手を握ったりする。慌てたドリスが二階席から転落するのだが、このとき映画館でやってるのがこの映画自身(『おしゃれスパイ危機連発』)というデタラメさ!
シャワーしてる最中に花が一本また一本と投げ込まれてくるというような細部も楽しく、セット/建物の中で人物を動かす巧みさは名人級。これは興奮します。

その次に観たのが、タシュリンがよくチームを組んでいたジェリー・ルイスディーン・マーティンの「底抜け」コンビの代表作の一本、『画家とモデル』(55)(タイトルに「底抜け」はつきません)。軽快なミュージカルタッチと、ジェリーと現場で組み立てていったような即興的演出が冴える(マッサージルームで無意味にひとが絡み合うシーンのドタバタ感!)。
シャーリー・マクレーンの占い大好き女の発情ぶりも楽しく、彼女がジェリーにしつこく絡むのが見事なミュージカル・ナンバーになってしまう。
後半は国際スパイものになるのだが、なぜそうなるかというと、これはもう観てもらえば分かるのだが、ただただ荒唐無稽。デタラメ映画の楽しさは、エンディングの「まだ間に合う!」で最高潮に(いや、ホント、観てないひとには分かりにくい記述でスイマセン)。

いやあ、タシュリン、凄いです。自由奔放、リズミカル。音楽センスも役者のさばき方も抜群。映画の世界にはまだまだ宝物のような監督がいるんだなあ…と思わせられました。