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ブレッソンの強烈な一撃『湖のランスロ』(1974)+『たぶん悪魔が』(77)

Facebook 内に 2022/ 3/ 22 に投稿した記事に手を加えたものです。

ロベール・ブレッソン監督作でずっと観たかった『湖のランスロ』を新宿シネマカリテで。
アーサー王伝説に登場する騎士ランスロの物語で、後で調べたら幼少時に湖の精にさらわれたことに由来する呼び名だとか。鎧に身を固めた騎士たちがガチャガチャと金属音を立てながら戦う様子は人間兵器のようで、無感情に記録された流血の描写がかなり不気味だ。
ブレッソン映画が本来的に持っている暴力性があからさまに表に出ている上、騎士同士の疑心暗鬼と反目、騎士と王妃の禁断の恋といった題材のネガティヴさもあって、観ていて緊張を強いられる。
その中でひたすら機械的に響く音の効果の鮮烈さ。先述の金属音のみならず馬の足音、いななきも強烈だが、試合シーンで繰り返されるバグパイプの儀式的な非情さが、とりわけ印象的。
そのメロディが呼び起こすブレッソン的アクションと、観ている騎士の「ランスロ」という呟き。ここは本当に凄い。
カラー撮影は美しく、人物たちの佇まいもみごとで、王妃が目を上げてランスロを見るだけで胸を衝かれる。村人の老婆と孫娘もいい。
ラストの森もまた非情で何とも暗い結末なのだが、言葉にできない感慨と「観た」充実感は得難いもので、この感情は「面白かった」と表現していいものではないかと思う。だってまた観たいぐらいだもの。

今回、同じ劇場でブレッソン監督の『たぶん悪魔が』も上映された。
死すべき主人公が超美形ということがヤバい現代劇で、無為で虚無な感じをどう受け止めていいのか不安だし、面白がれるお話もない。とはいえ皆でドキュメンタリー映像(水俣も登場する)を観るところや大木が次々と倒される描写などに、不快すれすれの刺激性がある。
これはひょっとして「嫌な映画」なのかも知れない。だがこの不穏感が、異常なまでに研ぎ澄まされた傑作『ラルジャン』(83)につながっていくのだ。小銭泥棒のシーンの不吉な美しさよ。

lancelotakuma.jp