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ジョン・フォード『血涙の志士』(1928)

Facebook に 2022/ 8/14 に投稿した記事に手を加えたものです。

シネマヴェーラジョン・フォード特集、かつてフィルムセンターで観たはずの『血涙の志士』を全く覚えてないので、気になって観に行く。
するとこれが驚くべきオモシロ映画で、アイルランドの田舎町を舞台に、高橋洋感涙必至の禍々しい暖炉の幻想はあるわ、大迫力の草競馬の障害物競争はあるわ、縛り首の家と言われたゴシックな邸宅は焼け落ちるわで、なんで記憶に無いのだ俺は馬鹿かと反省しきり。主人公のヴィクター・マクラグレンが若いカップルを励ます暖かさはさすがフォードで、男の背を叩く仕草に痺れる。こういうのが味だよね。
強く印象に残るのが、アール・フォックスというひとが演じる悪役で、人間的な弱さからくる卑劣さ、悪どさが、実に説得力がある。このフォックスさん、傑作『四人の息子』(28)でも憎まれ役を引き受けていて、1940年代になってほとんど映画に出なくなってからも『荒野の決闘』(46)にノークレジットで賭博師役で顔を出しているらしい。本作では影となる悪の要素を存分に見せてくれる。
んで、このフォックスがアイルランド独立運動ゲリラの英雄たるマクラグレンを密告するのだが、逆にマクラグレンが独立運動の友人を密告するのが名作『男の敵』(35)なわけで。帰ってからアマプラで観ると、マクラグレンとフォックスは肉体的には全然異なるけど、酒に溺れる弱さが悪徳とつながる点で一致するのだった。