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ジョン・フォード『モガンボ』(1953)『最敬礼』(29)

Facebook に 2022/ 8/ 2 に投稿した記事に手を加えたものです。

シネマヴェーラジョン・フォード特集、今日は『モガンボ』と『最敬礼』。いずれも初見。

『モガンボ』は、「腕と度胸の仕事師が、世間ずれしたタフな女といい雰囲気になるが、育ちのいい美人の登場に、釣り合わないと知りつつ惹かれていく」という西部劇にもありそうな話を、アフリカを舞台に繰り広げる。
クラーク・ゲーブルの主人公が男のフェロモンの塊のようで、その常人離れした存在感と、西部以上に生活感のない野生の環境が、神話のような象徴性・非現実感を映画にまとわせる。全体のタッチとしては熟練のフォード演出(ナイトシーンの男女の芝居づけのみごとさ!)と荒々しい現地の動物実写が混在しているのが、何とも言えぬ味わいだ。風景ショットも、その中を船が進んだりするのも美しい。
そして何より、タフな女を演じるエヴァ・ガードナーの素晴らしさ! さすがは今回の特集のメイン写真に起用されるだけある。檻の中の野生動物たちに軽率に「ハーイ♪」てな感じで声かけて回るところとか、「ああ、こういう女ってこうなんだよな」というリアリティがある。最初は怖がっていた大蛇を「もう、どいてよ!」とベッドから払い除けるのは笑わせるし、男たちが「ケリー(役名)は大した女だ」という意味で "Kelly is All Right" と何度も言うのは、フォードらしくていい。
何よりラストはびっくりするぐらい唐突に彼女が「持っていく」のだが、その唐突さも、直前の船が行く演出の間合いで、みごとに受け入れられるものとなっている。このあたりの巧さも凄い。フォードは天才だが、ちゃんと勉強になる。

もう一本の『最敬礼』は、(当時の)現代の兵隊もの。何かにつけて優秀な陸軍の兄と比べられがちな海軍の弟が、男を見せるまでのお話。フォードの長編トーキーとしては『黒時計聯隊』(29)に続く二作目だ。
『黒時計』が-フォードではなく舞台演出家が付け加えたシーンで-延々とセリフが続く退屈なものになっていたのに対し、さすがにもう少しのびのびとトーキーという新システムに取り組んでいる。ヒロインのピアノで戸外の海軍兵連中が合唱をするあたりは、早くも「歌わせる監督」フォードの面目躍如だ。とはいえ、トーキーごく初期の作品特有の(無声映画期に完成した)映画のリズムが見失われたような感じは、まだ少しある。ジョン・フォードが若い男どもの活気、無邪気さを描く-というだけで身を乗り出すファンなら、楽しめる映画ではあるのだが。
ワード・ボンドが、先日観た『モホークの太鼓』(39)よりさらに10年若く、主人公の先輩学生役をやっているのが見もの。ただし、それ以上に驚きなのはいくつかのシーンでボンドの隣にいる学生だ。これといった芝居のしどころも無いのだが、後のフォード映画の…いや、アメリカ映画の大スター。さて、誰でしょうか?

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モガンボ(字幕版)