鑑賞録やその他の記事

清水宏『花形選手』(1937)『小原庄助さん』(49)

Facebook に 2021/ 4/20 に投稿した記事に手を加えたものです。

新文芸坐清水宏監督特集へ。

花形選手』(37)は驚くべき自由な映画。
兵学校の一泊二日の野外訓練を描いているのだが、太平洋戦争開戦4年前の田舎の描写は実に平和で楽しい。学生兵の隊列が歌うたいながら一本道を進み続け、若い女たちや肥樽を乗せた大八車などとすれ違い、そのたびに波打つような反応が起きる。人物がカメラが舞踏のように音楽的に動き、隊列が不意に道から外れて川を目指すときなど感動で震える。中間部の田舎町の夜は憂愁味溢れるバラードのようだ。坪内美子演じる門付けの女の表情が瞳にしみる。

小原庄助さん』(49)。
田舎の名家の旦那が、ひとの良さゆえに皆を惹きつけ、やがては没落する。ありそうな話なのだが、リアルというより、象徴化された人物による(その当時の)現代の伝説のようにも思える。大邸宅をカメラが長い移動を「演じる」とき、音が変化するのも実に効果的だ。ラストは夢か現か。夢なら悲しすぎるので、現と示すようなエンドタイトルが出るのは作り手の優しさか。大河内傳次郎も素晴らしいが、飯田蝶子のばあやが絶品。そしてあのロバ、樹木と子どもたち!

なお、この二作も含め清水宏監督作品はそこそこ YouTube にあがっている。なかなか特集にめぐりあえない地方の映画ファンは、検索してみてはいかがだろうか。