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『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』(1975)

Facebook の 2022/ 5/10 の投稿に手を加えたものです。

シャンタル・アケルマン映画祭で公開中の『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』を観る。
デルフィーヌ・セイリグ演じる名もなき未亡人の日常とその崩壊を描き、最初の場面から-ただ料理してるだけなのに-かなり変なひとが作った感じが漂い、緊張させられる。据え置きカメラで捉えられた-売春をも含む-日課を淡々とこなしていく様子は、リアルなはずなのに、ジオラマの中で演じてるような、不思議な違和感がある。どこかで生きる実感が失われる空虚さに呑み込まれてしまいそうな、何とも言い難い違和感。そんな中で観客は、主人公の神経が蝕まれ、静かに狂っていく様子を、各場面においては時間の省略がないまま、まるごと体験してしまう。その長さ、200分。必ずしも自分の得意なタイプの映画ではないが、なかなか凄い体験ではあった。
隣の席では、年配の男性が何度も船を漕いでいた。睡眠不足で観る映画じゃないよ-と言いたいところだが、断片的に目が覚めてみると主人公が相変わらず生活していて、しかもどこか違ってる-という観方もいいかも知れない。早送りでは決して体感できない劇場鑑賞の良さじゃないか。
しかし平日の昼間にこんな映画が170席ほどの中規模の劇場で8割強の入りで、夜の回は予約で満員。ヘンだぞ、渋谷。