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イーストウッド、還暦の大衆娯楽活劇『ルーキー』(1990)

Facebook の 2018/10/30 の投稿に手を加えたものです。

午後のロードショーで録画したクリント・イーストウッド監督作『ルーキー』、映画館のロードショー以来の再見。ベテラン刑事のクリントがタイトル通りの新米チャーリー・シーンと組んで活躍。大きな見せ場のクリントが逆レイプされるところがCMで中断されるのは、お昼の地上波だから仕方ないと言っても残念。
そのシーンがあるのとトラウマ・ネタなので(※注)本来はバディ・ヴァン・ホーンにでも撮らせるつもりだったのを本人がやりたくなったのでは…と邪推していたが、いま観なおすと還暦を迎えて派手なアクションの総決算をやりたかったような気がしてくる。観た当時以上に大衆娯楽的な活劇の要素をあれもこれもと盛り込んだ感じが楽しい。
冒頭のカーチェイス(最高なのだがこれはヴァン・ホーンが演出したという話も聞いたことがある、ソースは未確認)、酒場での格闘、銃撃戦にいわゆる「グリフィス最後の救出」めいた(登場人物のピンチと救出にかけつける者の)カットバックまである。チャーリー・シーンクリーニング屋に行くシーンでは、一級のサスペンス演出の腕も見せる。サディスティックな女殺し屋は見事な彩りだし、爆発する工場の窓を車で突き破って脱出するシーンは「この映画といえばこれだよね」という売り物になっている。別にイーストウッド監督作品なんて事実は知ってもらわなくても、こんなシーンが観られますよ…という健全な商業映画のあり方だ。
クリントが監督としてこの2年後に発表したのが『許されざる者』。それ以後、善悪両面を併せ持つ人間の複雑さを描く方向に進んでいき、やがては実話に材を取るのに熱中するわけだが、ファンとしてはこういう華やかなのも懐かしい。御本人としては、この手はやりきったつもりなんだろうな。そう思うと、愛おしさの増す作品だ。

注:女性への加虐/被虐が混じった感覚と、過去のトラウマへのこだわりは、監督クリント・イーストウッドのふたつの大きな特徴だと思う。

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ルーキー(字幕版)