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若さと熟練の共存『早春』(1970)

Facebook の 2018/1/31 の投稿に手を加えたものです。

中学生の頃「スクリーン」でヌード立て看板と泳ぐスチールを見て以来、気になっていたイエジー・スコリモフスキ監督作品『早春』(70)を、遂に恵比寿ガーデンシネマで初見。
思わせぶりなイントロに「一昔前のアート風味を楽しむ映画か」と思いかけたものの、直後の主人公、ジョン・モルダー=ブラウン(美少年!)が綺麗なお姉さん、ジェーン・アッシャーに仕事の説明をされるシーンの溢れる生気に圧倒される。社会に出たてで敏感な人間の触れる音声と動きが、奔流のように迫ってくる。そして観客はあれよあれよという間に、恋に陥る主人公の馬鹿げた落ち着かなさを、丸かぶりしてしまうのだ。
この若々しさをして、処女作ではない。主役の二人のみならず登場人物のひとりひとりに「ああ、こいつ知ってる!」と思わすリアリティは、作家として、また人間としての経験値の高さを感じさせる。なんという若さと熟練の共存。ロケーションで捉えた場所の中で思い切り芝居させてみた結果の偶発的な良さと、「こういうことやってみたかったんだ」という作家的野心が場面ごとに惜しみなくダダ漏れしていく。最後は、この恋の激しさの決着はこのように描くしかないと思わせる趣向が、絶望的に炸裂する。
唖然として見ていくしかない時間を愛おしみたくなる奇跡的な映画だ。