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活劇的に演出された英雄悲劇-『悪徳』(1955)

Facebook 内に 2018/ 6/ 3 に投稿した記事に手を加えたものです。

何がジェーンに起こったか』(1962)余波でロバート・アルドリッチ監督作品を DVD でもう一本、『悪徳』。原題は "The Big Knife" とカッコイイ。
これが実に『ジェーン』と共通項の多い映画で、ハリウッド内幕モノというだけでなく、懐かしき昔、決定的な事件、そして何より自滅のドラマというのが鮮明に打ち出されている。
クリフォード・オデッツによる戯曲の映画化で、ほとんどが主人公邸宅の屋内で繰り広げられるなど非常に演劇的なのだが、そこはアルドリッチ。連続する登場人物の対決を、切れの良い芝居の動きとカッティングで、最後まで活劇的に見せ切る。そして対決が重なるたび、主人公の苦悩は強まり、自滅への道を明らかにするのだ。つまりこれは、一種の英雄悲劇である(英雄といっても主人公を賛美しているわけではなく、ギリシャ悲劇的な運命的な破滅を背負わされた存在の悲劇の意味である)。
暗く激しいドラマを堪能し、カタルシスを得たが、ひとつだけ疑問が残った。主人公の妻の不貞を証明すると見せかけて実は全く逆の会話が録音されていたレコード。これを悪役側がかけようとしたのは、なぜだろう。不明のまま、勢いではぐらかされた感じがした。
役者は主演ジャック・パランス、ヒロインのアイダ・ルピノ含め、全て見事だが、『雨に唄えば』(52)のキーキー声スター役で有名なジーン・ヘイゲンが1シーンで強烈な印象を残す。いい女優さんだなあ。

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