鑑賞録やその他の記事

『無頼の谷』(1952)

Facebook に 2019/12/17 に投稿した記事に手を加えたものです。

無頼の谷』をDVDで。フリッツ・ラング監督の西部劇は『地獄への逆襲』(40)『西部魂』(41)は観ているが、これは初見。
最初の主人公アーサー・ケネディの恋人が強盗殺人に遭うところが、金庫を開けさせられる彼女を見下ろす悪党の影が差しかかるのといい、遊んでいる子どもが悲鳴を聞くのといい、直後にケネディの目にした死体の指に抵抗の跡があるのといい、ラングらしい禍々しさが炸裂だ。
それからのケネディの復讐譚が本筋で、床屋での格闘(※注)や脱獄劇を面白く見せたあと、マレーネ・ディートリッヒの女傑が仕切る無頼漢ばかりの牧場で犯人を探ることになる。
ディートリッヒの情夫といえる高名なガンマンを演じるメル・ファーラーがたいへん良く、ケネディよりこちらが印象に残るひとがほとんどではないか。ディートリッヒとファーラーの縦型ルーレットのエピソードの視覚的な妙味。二人が並んで歩くシーンの、女がスカートを少し上げて水たまりをまたぐのに不思議な味わいがある。
クライマックスの銃撃戦は屋内で繰り広げられ、硝煙が部屋を包むのが非常に劇的だ。ここでのディートリッヒの運命の描き方に、ハッとさせられるものがあり、それによってケネディとファーラーの関係に変化ができて映画は終わる。
ところどころで挟まれる歌がナレーション的役割を果たしており、全体をひとつの伝説のように見せている。

注:床屋での強烈な殴り合いでは盛んにカメラがぶれ、最初は「え? 手持ち?」と思ってしまった。だが1952年のテクニカラー映画では考えにくい。後でその部分だけ見直したら、激しく動く人物に肉薄するように-おそらく-望遠気味のレンズで追っていて、そのため三脚上でもぶれているのではないかと判断した。ラングの野心的な撮り方に驚かされる。

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無頼の谷(字幕版)