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青春ラブストーリー『花束みたいな恋をした』(2021)

Facebook の 2021/ 2/ 6 の投稿に手を加えたものです。

土井裕泰監督作品『花束みたいな恋をした』(※注)。
オタク気質の男女が出会い、長い春を経て別れるまでを描く-と書いてもネタバレじゃないですよ、既に別れてるところから始まって数年前の出会う前に戻るという作劇なので。
演じるは菅田将暉有村架純。この二人が好きなのが観に行った理由だけど、いやもう可愛く撮れてるしイキイキと演じてるし、その点では充分以上に目的が果たされた。
演出もかなり心得たもので、しばらく気を持たせてから「いよいよ出会いますよ」-というあたりの間合いは素晴らしいと言っていい。いったん駅のホームへ向かったはずの有村が戻ってくる感じなど、うまいものだ。
その直後のオシャレなバーで菅田が押井守を見つけてオタクらしく興奮するところ、これは悪い意味であざとくなりかねない設定なんだけど、芝居が上手いので映画に弾みがつく。そのまた次の大衆的なチェーン居酒屋の一連も、自然に時間経過を見せていて、映画を観る楽しみがある。
とにかく出会いから結ばれるまで、青春ラブストーリーに必要な「うまさ」と「初々しさ」が両立していて、これは相当なもんじゃないかと思った。何より、オタク設定にリアリティをもたせているはずなのにルックスは菅田将暉有村架純というのが、「映画だから」と気持ちよく見せる方に作用している。
で、この映画が本当に描きたいのは、その後なんだろう。ここまで完璧に相性の合いそうな二人が、理想的な出会い方をして、愛して愛して愛し合って、でもなぜ別れるのか。その別れ自体を嘘っぽくならないように描くにはどうしたらいいのか。その点で非常に考えを重ね、作り込まれた映画ではあるのだが。
それでも、「どうせ別れる」という前提のもとで見せ切るには、やや惜しい部分もあった気がする。例えば二人が同棲するマンションの一室は、もう少し映画の舞台として活かせなかったか。猫は猫を出すだけの意味があったのか。そしてクライマックスは本当にあの撮り方、あの芝居でいいのだろうか…。映画自体が難事に挑戦しているだけに、疑問も残る。
とはいえこれは「ちゃんとラブストーリーを作るにはここまでやらないと」という志のある映画であり、味のあるラストとエンドロールのおかげもあって、そこそこの満足感をもって観終えることができる。映画館の明かりがついて、女性客たちが泣いている様子は、悪くない。「可哀想」を押し付けられたものではない、割とさわやかな涙ではないかと思うからだ。
オダギリ・ジョーが有村の転職先の社長役で出ているが、これが実にいかがわしくて笑える。水を得たスケベだ。

注:本作は、サイトによって年度表記が 2020・2021 と異なるが、ここでは公式サイトの「2021年01月29日(金)公開」表記に基づき、2021 作品とした。