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グレゴリー・ペックの陰鬱な西部劇『無頼の群』(1958)

Facebook の 2021/ 1/ 9 の投稿に手を加えたものです。

無頼の群』を観る。西部劇史上の傑作『拳銃王』(50)同様、ヘンリー・キング監督がグレゴリー・ペックと組んだ西部劇だ。
緊密な『拳銃王』に比べ、カラーでシネマスコープな分、ざっくりとした画面構成が魅力的。70代に入ったばかりのキングの若々しい感覚に感服する。ロングで馬に乗った人物を捉えた西部劇らしい場面もいいが、ミサから抜けた若い女性が疑似夜景の町を走るロングのパンなど素晴らしい。ここで気持ちを掴んで次の室内での拉致劇に持っていく、これぞ演出。
ドラマのムードとしては、悪役時代の若きリー・ヴァン・クリーフが命乞いするのをグレゴリー・ペックが無残に殺す(※注)シーンに象徴されるように、血なまぐさく陰鬱。ダイナミックな野外撮影が救いになってはいるものの、復讐劇がカタルシスに至らない奇妙な作劇だ。
脚本はフィリップ・ヨーダンで、赤狩りで表立って仕事できなかった脚本家に名義貸ししたひと。特に50年代の作品は弾圧された誰かが書いた可能性が高く、『南部に轟く太鼓』(51)『大砂塵』(54)『折れた槍』(54)などがある。本作もペックが「マッカーシズム批判が込められた話だ」と述べたらしいが、「疑わしきは罰せず」が正解であるはずなのに暴走してしまう…というのがそれかも。だとすると最後の街の人々の熱狂も皮肉に思える。しかし『大砂塵』ほど露骨なアンチ赤狩り西部劇ではない。
ペックの娘役の女の子がやたら可愛く、調べたらマリア・グラシアという子役で何本か主演作もあったようだ。大人になってからは少なくとも映画界では活躍しなかった様子。ヒロインのジョーン・コリンズも麗しい。

注:グレゴリー・ペックというと『ローマの休日』(53)で明朗なイメージを持ってるひとも多いかも知れないが、本作や『拳銃王』『白昼の決闘』(46)『白鯨』(56)など、どちらかというと屈折した陰鬱な役柄が目立つスターなのだ。